35人が本棚に入れています
本棚に追加
初恋だった。
陣内 このみ(じんない このみ)は、高校2年の夏、初めて恋に落ちた。
転入生の、多久島 功(たくしま いさお)。
頭が良くて、物腰が柔らかで、明るくて……。
彼がこのみと同じ吹奏楽部に入部した時は、胸が高鳴った。
パートは、ホルン。
温かな音色は、優しい彼にピッタリだと思った。
部活が同じだと、話す機会はいくらでもある。
帰り道で一緒になることもあった。
だが、彼の前にいざ出ると、途端にうまく喋れなくなった。
それでも沈黙が怖くて、このみはひっきりなしに話し続けた。
「陣内って、おもしろいな」
笑顔で、功はそう言ってくれた。
やがて、彼には他に好きな人がいるらしいという噂が流れた。
相手は、陸上部のエース。
とてもかなう相手じゃない。
このみは、告白を諦めた。
この恋に、蓋をした。
最初のコメントを投稿しよう!