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数奇な出会い
「聞こえなかったのか。お前のような路線がいても、邪魔なだけだ」
冷徹な声は、私に突き刺さる。
「わかっただろう。お引き取り願おうか」
嘲笑うかのように見下した笑み。
「帝釈人車軌道」
「申し訳ない」
「いえ」
「君は何も悪くない。私の信用がなかったんだ」
「そんなこと」
社長さんは肩を落とす。
私が良い路線じゃないばかりに。
「⋯⋯あそこに行こう」
「え?」
社長さんはガバッと顔を上げると、貼り付けたような笑顔を見せた。
「もうひとつ、頼りにしてみよう」
不安の色は隠せていなかった。
「──というわけで、この子はきっといい路線になる。是非、助けてやってはくれないだろうか」
連れていかれたのは、薄い茶髪の青年の元。
「僕のところなんかでいいんですか?」
「その言い方もどうかと思うが」
社長だという男は苦笑いをする。
「あっごめんなさいそういうわけでは⋯⋯。でも、もっといい所が他に⋯⋯」
「東武なら私を見捨てたわ。」
「帝釈⋯⋯」
思っていたより嫌味ったらしく聞こえたらしい台詞は、諦めによるものだった。
しかし。
「そっか、大変だったんだね。俺でよければ君を助けるよ」
帰ってきた言葉に、拍子抜けした。
こいつは今、本当に私を助けると言ったのか。
「ほ、本当かい!?」
「うん。社長さん、いいかなあ」
彼が振り向くと、男は快く頷いた。
「だって!よかったー」
「⋯⋯私なんか引き取っても、何の役にも立たないわよ」
「そんなのまだわからないよ」
呑気に笑いながら、そいつは私に手を差し伸べた。
大きく外れた予想だが、それは幸運だった。
「それに、助けてって言われたら助けたくなっちゃうんだ」
助けてと言われた度助けていたら、こいつ自身は放っておかれてしまいそうだ。
「⋯⋯私が面倒見てやらなきゃダメじゃない。そんなんじゃいつか馬鹿みる」
呆れるほどにお人好しなそいつは、首を傾げた。
別に嫌ではないのだし。
手を、取る。
「一生命綱にしてやるわ」
「うん、僕頑張るね!」
笑顔が、ぱあっと明るく咲いた。
「これからよろしくね。あ、俺のことは京成って呼んでくれて構わないよ」
ただ消えるのを待つばかりの私を、暗闇から掬いあげた。
それはまるで、西洋の物語に描かれる王子様のようだった。
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