龍ヶ淵戻石伝説

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 それから2人は老婆の世話になり、この時代での生活の仕方を学んだ。仕事も見つけ、お金を得る術も覚えた。戸惑いながらも一生懸命この時代に馴染むよう頑張った。  女郎屋に売られるよりはよっぽどましだと思いながら必死で生きた。  それから数年後、老婆は天寿を全うし帰らぬ人となった。2人はささやかながらも心を込めて老婆を送った。  老婆と暮らした神社横の小さな家は、老婆が生前に竹蔵の名義にしておいてくれていたので住むところには困らなかった。  カヨと竹蔵は老婆の部屋の整理をした。 「本当にお世話になったわね」 「ああ、感謝してもしきれないほどだな」  何も分からない自分たちのために家族以上に面倒を見てくれた。何の恩返しも出来ず、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 「あれ、これは……」  老婆のタンスの奥から『猿覚書』と書かれた古い書物が出て来た。 「もしかしたらこれは猿婆の書いた本かも知れない」  2人は本を開いた。何年何月何日、誰々が石を持って龍ヶ淵へ行ったと細かく書いてあった。そして読み進めていくと自分たちの名前もあった。
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