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「駆け落ちなぞしてどうする。何処へ行く。残された家族がどうなるのか考えたのか」
「家族? 娘を売ろうなんてヤツは家族でも何でもねえ。そうだろ、カヨ」
「うん……」
そう返事をしたものの、カヨは残された父母、幼い兄弟たちの事が心配でならなかった。自分が素直に売られれば家族は何とか生きていける。でも自分が逃げてしまったら家族はどうなるのだろう。親は年貢を納められなくて罰を受けるだろう。捕まって牢屋へ入れられるかも知れない。残された幼い兄弟は食べていけるのだろうか。村八分にされるだろう。虐められるだろう。
しかしそうと分かっていながら逃げようとしている自分がいる。竹蔵と離れたくない。竹蔵以外の男になんて指一本だって触れられたくない。そんな事をされるなら死んだほうがましだ。
「カヨの家も竹蔵の家も間違いなく村八分にされるぞ。それでも行くのか」
「じゃあ俺たちだけが辛い思いをすればいいのか? 俺たちが不幸になって家族だけが呑気に暮せればいいのか? おかしいじゃないか。不公平だ」
「お前たちが不幸なら家族だって不幸だ。替われるものなら替わりたいと思っているはずだ。しかしそうしなければ家族全員生きては行けぬのだ」
猿婆の言葉に一瞬心が揺れた2人だったが、それでも若い2人は握った手を離す事は出来なかった。
「わ、私に娘がいたら、絶対売ろうなんて思わない。好いた人がいるなら一緒にさせてあげる!」
「そうだ、それが親だ。自分が不幸になったって子どもの幸せを願うのが親だ!」
一途な瞳で睨まれ、2人の決心が変わらない事を悟った猿婆は諦めのため息を付いた。
「このばばが、何を言っても思いとどまる事は無いのだな」
「ああ、俺達の気持ちは変わらない」
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