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竹蔵は懐から石を取り出しカヨに握らせた。竹蔵はカヨの握った手を上から包み込むように握りしめた。カヨは腰紐を外し、2人の手が離れないようにとしっかり縛った。
空が白み始めた。龍ヶ淵の淀んだ水が波打ち始めた。
「明るくなってきて良かったね。違う所へ飛び込んだら大変だもんね」
「そうね。竹蔵の顔もよく見える」
「カヨの顔も……相変わらず可愛い」
2人は静かに微笑んで見つめ合った。
「もし龍が襲って来たら私目をつむって竹蔵にしがみついてる。そうしたら一緒に龍のお腹に入れるわよね」
「うん。俺はしっかりカヨを抱き締めてるよ。絶対に離れないように」
「竹蔵、大好き」
「俺も大好きだよ」
山の上から太陽が頭を出した。川面のさざなみが光を反射し、龍ヶ淵はまるで極楽浄土への入口に思えて来た。
「行こうか」
「うん」
カヨはしっかりと竹蔵にしがみつき、竹蔵もしっかりとカヨを抱き締め、2人は前に進んだ。
水音は一瞬だけ渓谷に響いたが、すぐにまた静けさを取り戻した。太陽が顔を出し川底の魚さえ良く見える明るさになったが、人の気配は全くなく、いつもの穏やかな淵に戻っていた。
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