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「でもどうして猿婆は石を持って行ってしまったんでしょう」
初めて着た洋服に違和感を感じながらカヨが聞いた。
「逃げる場所を無くすためだと思います。逃げたい気持ちも分かる。でも最初から、何もしないうちから逃げてしまうのは逃げ場所があるからだ。あがいてあがいて、それでもどうにもならなかったら逃げれば良い。最初から諦めるな、と猿は言いたかったのでしょう。あなた達は逃げる前に何かしましたか?」
「……」
最初から駄目だと諦めていた。親に対して嫌だとも言えわず、他の方法を考えもせず、ただ逃げる事だけを考えた。
「きっとご両親も何か言ってもらいたかったと思いますよ。何も言わずにいなくなられるなんて切なかった事でしょうね」
カヨの目から涙がこぼれた。
「さよならも言わなかった……。心配してるだろうな」
「文句の一つでも言って欲しかったと思いますよ」
「そうですね。私が逃げた理由も分からず、いえ、逃げたのかさらわれたのかも分からず、きっと心配してる事でしょう。ああ、なんて親不孝をしてしまったんだろう」
カヨはしばらくの間、ただ泣いていた。竹蔵も自分の軽率な行動を激しく後悔した。
「私が居なくなった後、家族はどうなったか分かりますか?」
「それは分かりません。どうなったんでしょうねえ」
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