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「ブレイズの獅琉。何を食うにしても、まずは買い出しと準備に分かれて行動した方が良くないか」
「そうだね。ていうかメニューは何がいいかな? せっかくだから、出来合いの物より手料理がいいよね。夕兎くんは料理得意?」
獅琉の問いかけに、腕組みをして何故か得意げに言う夕兎。
「……俺に不可能はないが、料理はしたことがない」
「そっか。それじゃあ無難にカレーでもいいかな? みんなはどう?」
「カレーがいい!」
満場一致でカレーに決まり、俺は大雅と二人で近くのストアへ買い出しに行くこととなった──のだけど。
「二人だとちょっと心配だね。荷物も多くなるだろうし、迷子になるかもしれないし」
獅琉ママに言われてむくれる俺達。獅琉と竜介と秋常の「料理できる組」はキッチンの設備や使用する皿や調理道具を出したり洗ったりで忙しいし、潤歩と夕兎の「我が道を行く組」は風呂の掃除をすることになっている。この二人に財布を持たせたらちょっと危険かもしれないという理由からだ。
「そしたら……怜王くん、付いてってあげてくれる?」
「えっ、あ、……ああ」
獅琉に言われて動揺を見せた怜王が、微妙に大雅の方へと視線を向けてから頷いた。まだ撮影後に言われたアレを気にしているのか、何だか大雅のことを怖がっているみたいだ。
「怜王さん、付き合ってもらってすみません」
「いや、いい。……気にするな」
大雅はまだ怜王と対等に喋れない様子で、俺の横にぴたりとくっついて歩いている。怜王も口数は少ない……というか俺から話しかけない限りは無言だし、めちゃくちゃ気まずいセットじゃないか。
「だいぶ暗くなってきましたね。街灯はあってもちょっと怖くないですか?」
「……ああ」
「ストアって遠いのかな?」
「分かんない」
「来る時に車からチラッと見えましたよね。一応、アプリで地図見ながら行った方がいいかな」
「………」
「………」
俺が敬語を使っているのは怜王にだけ話しているわけじゃなく、この場で最年長の怜王に合わせているだけだ。なのに大雅は「敬語ということは自分に言ってるんじゃない」と思っているらしい。
そしてそれと同じく、タメ口だと怜王は「自分に言っているんじゃない」と思うらしく何も答えてくれない。──つまり、敬語とタメ口がごちゃまぜだと、二人して「自分じゃないかも」と何も答えず黙り込んでしまうのだ。何という繊細な人たち。
「えーと、怜王さん。怜王って呼んでもいいですか? タメ口だと生意気ですかね」
「……構わない。好きにしろ」
良かった。本当に良かった。これで少しは会話も弾むはずだ。
「怜王って、背大きいよね。竜介さんとどっちが大きいだろう」
「……竜介」
「あはは。大雅は何でも竜介さんが基準だから」
素直な微笑ましさから笑って言ったのに、大雅にきつい目付きで睨まれてしまった。
「……あの男とお前は、付き合っているのか」
怜王が渾身の勇気を振り絞って大雅に尋ねる。が……
「関係ない。そういうの答えるつもりないし」
「……冷たい言い方だなぁ。ごめん怜王、大雅に悪気はないんだ」
「亜利馬のこと、傷付けた」
「え?」
大雅が俺を挟んだ向こう側の怜王を睨んで言った。
「亜利馬に酷いことしたから、俺は怒ってるんだけど」
「あ、……」
「ちゃんと謝ったら許すけど、謝らないならずっと許さない」
「………」
そうだ。撮影の後で怜王に言った一言だって、俺の「仇討ち」が原因なんだ。分かっていたのに、……俺は真剣に怒っている大雅の気持ちを置き去りにしてしまっていた。
「……ごめん大雅、俺のために怒ってくれてたのに。でも怜王はその後でちゃんと謝ってくれたんだよ。だからもう……」
「いや、それは関係ない。──すまなかった」
突然、怜王が道の真ん中で地面に膝をついた。
「お前にした無礼はメンバーへの無礼そのものだ。後で他のメンバーにも謝る。大雅、……すまなかった」
「……大雅」
「謝るならいいよ、……別に」
ぷいと怜王から顔を背けて、大雅が再び歩き出す。その顔を見れば本当に許していると分かるし、突然土下座されて動揺しているのも分かる。俺は不安げな目をしている怜王の腕を引いてその場から立たせ、「もう大丈夫。ありがとう」と囁いた。
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