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それから俺達三人はストアで必要な食材を買い、ついでにお菓子とジュースも買い、怜王のチョイスに任せてビールを買い、三人とも両手に買い物袋をぶらさげてロッジへ戻った。
「おかえり! 三人とも、大丈夫だった?」
「ただいまです獅琉さん。大丈夫ですよ、ちゃんとメールの通り買ってきましたし。……まぁ、お菓子とかも買いましたけど」
「……領収書ももらった」
大雅が獅琉に領収書を渡すと、「そうじゃなくてね」と慌てた様子で獅琉が言った。潤歩と竜介はニヤケている。……夕兎と秋常は無表情だ。
「どういうことですか? 何かあったんですか?」
「あのね、さっき海原さんが来て言われたんだよ。この辺りって、海とか森が近いからか心霊スポットが多いんだって。だからこのロッジも安く買えたんだって」
「え……」
「道、暗かったでしょ。何か見なかった?」
「な、な……ななな何も見てないですよっ! 変なこと言わないでください獅琉さんっ」
「俺じゃなくて海原さんが言ったんだよ。だから夜は宴会しないでさっさと寝ろって」
「そ、そんな……」
真っ青になったのは俺だけだ。大雅は普段通りしれっとしているし、怜王もあまり気にならないタイプなのか、慌てる俺を物珍し気な目で見ている。
俺は本当に怖い話が苦手で、心霊番組もホラー映画も一切見たことがないほどなのだ。一つでも怖い話が頭に入ってしまえばもう終わりで、それこそ潤歩が言っていた通り夜中に一人でトイレに行けない。十八歳にもなって恥ずかしいけれど、本当に本当にこればっかりは駄目なのだ。
「亜利馬~、お前は鈍感で良かったなぁ。能天気に夜道歩いてて、後ろから来る足音にも気付かなかったんだろ?」
潤歩が俺の頭を撫で、そのまま自分の方へと引き寄せながら囁いた。
「ぺた、ぺた、……濡れた裸足の足音が、ずっとお前の後を付いて来てたのによ」
「やっ、やめてくださいってば!」
あと一ミリでも恐怖ゲージが上がれば潤歩を殴っていたかもしれない。俺は拳を作る代わりに自分の体を抱きしめ、剥き出しの腕に立った鳥肌を撫で摩った。怖がりの奴に限って想像力が逞しいから困る。
頭の中に思い描いてしまったのだ。びしょ濡れのゾンビみたいな幽霊が、俺の後をぴったり付いて歩いているところを。
「………」
「だ、大丈夫ですよ亜利馬くん。幽霊だろうと何だろうと、俺が守って差し上げますから!」
「てめぇも震えてんじゃねえかよ」
秋常と手を握り合って臆病者同士震えていると、竜介が腰に手を当てて高笑いをしてから言った。
「そんなに怯えなくていい、海原さんに一杯食わされたのさ。明日も朝から撮影がある俺達を早く寝かせるためにデタラメを言ったんだ。どうせ俺達が宴会するって分かってたんだろう」
「そ、そんな修学旅行の先生みたいなことしますかね?」
だけどそれが一番安心できる答えだ。騙されようと何だろうと、幽霊が出ないならそれで良い。
獅琉が両手を叩いて言った。
「まあまあ、怖い話なんてみんなで楽しく過ごしてたら忘れちゃうよ。せっかく亜利馬たちが食材にお菓子にお酒も買って来てくれたんだから、カレー作ろう!」
「そ、そうですね! これだけ人数いれば最悪のことが起こっても何とかなりそうですし……」
若干顔が青いままの俺と秋常、そして夕兎だけれど……獅琉が言った通り夕食の支度の方が楽しくて、時間が経つにつれて気付けばみんな笑っていた。
見事な包丁さばきで素早く野菜を切ってゆく竜介と獅琉。赤ワインをちびちびと飲みながら「これが隠し味にもなるんです」と笑う秋常。ぐつぐつと音を立てる鍋をかき混ぜる俺。くつろいでテレビを見ているその他大勢──潤歩と大雅と夕兎と怜王。
作ったのは殆ど獅琉と竜介と秋常で、俺は鍋をかき混ぜるくらいのことしか出来なかったものの……結果、世界で一番美味そうなカレーができた。
「やった! 超美味しそう!」
「腹減った!」
レンジで温めるタイプのご飯も、皿に盛ればほかほかでいい匂い。たくさん動いた分腹が減って仕方なくて、俺はスプーンを握り今か今かと「いただきます」の号令を待った。
「よし、それじゃあいただきます!」
「いただきます!」
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