亜利馬、18歳のお仕事

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 それから約十分後。更におかわりのコーラを飲んでいると、店内入口から見慣れた顔が入ってきた。 「よう、獅琉に亜利馬」 「竜介(りゅうすけ)さん! お疲れ様です!」  背が高く体つきも男らしい竜介もまたブレイズのメンバーで、俺の先輩だ。二十三歳でメンバーでは最年長。胸元の開いたシャツと肩まで伸びた焦げ茶の髪を振り乱していて、一見するとワイルドだけどその性格はすこぶる優しく、周りからは兄貴と慕われている。 「竜介さんもこの時間に仕事終わったんですね」 「ああ、後の二人もここに来るみたいだぞ。五人揃うのも久し振りだな」  メニューを開きながら笑う竜介の隣で、獅琉が頬杖をつき「最近みんな忙しかったもんなぁ」と呟いた。 「忙しいのはいいことじゃないか。亜利馬もだいぶ成長できているという証拠だろう」 「さっきも獅琉さんに言われましたけど、俺はまだまだですよ。ちょっとだけ慣れてきたってだけで……」 「そうか? お前の最新作見たけど、結構良かったじゃないか。獅琉に抱えられて風呂場で小便を──」 「竜介さんっ、ストップ! やめてくださいっ!」  慌てて身を乗り出し、竜介の発言を大声で遮る。その話題だけはして欲しくなかった。ここが公共の場だからというよりは、俺自身その時の撮影を思い出すと真っ赤になってしまうからだ。それは「羞恥プレイでも何でもやる」と決意した直後に与えられた企画が俺のキャパを超えてしまい、鼻血からの気絶に撮影延期という3コンボを叩き出してしまった作品だった。 「あの時の亜利馬、可哀想だけど可愛かったねぇ。特等席で見れて良かったよ」 「し、獅琉さんまでやめてくださいってば!」  とにかく俺には耐性というものがない。撮影を通して色々なことに少しずつ慣れてはきたものの、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。俺も獅琉や竜介のように長く続けていたら、いつかはそんな気持ちも無くなるのだろうか。逆に、彼らも俺くらいの時には恥ずかしくて真っ赤になってしまう撮影とかもあったのだろうか。  注文したステーキセットを食べ始めた竜介をぼんやり見つめていると、突然、真横からスマホを持った手が伸びてきた。 「えっ……?」  画面に映し出されていたのは俺だ。俺がピンク色のベッドに倒れて獅琉とがっつり絡み合っているところだ。音声は無かったけれど、そのベッドの色ですぐに分かる──竜介が言っていた俺の「最新作」。 「なっ、なんで……なにっ?」  突然のことに動揺しつつスマホを持った手からその顔へと視線を移動させると、そこには紫色の髪を逆立たせた俺の先輩──潤歩(ウルフ)がいた。 「う、潤歩さんっ! 何やってんですかっ!」 「お前の最高傑作。わざわざダウンロードして買ってやったぞ」  約四か月前に出会った頃と何も変わらない、その悪魔のような笑顔。学生時代からの付き合いをしている獅琉と比べると意地悪で自分勝手で俺様気質で、ロックで派手なファッションを好んでいる二十一歳の人気モデル、潤歩。  初めは怖かったけれど、何かと俺をからかう潤歩とは今では口喧嘩友達のような関係になっている。尊敬する先輩の一人ではあっても、プライベートでの彼はある意味俺よりも子供っぽい一面を持っていた。 「やめてください、そういうの!」  真っ赤になってスマホを奪おうとするが、チビの俺ではとても潤歩に敵わない。そんな俺達のやり取りを見た獅琉が、「潤歩は亜利馬のこと大好きだねぇ」と苦笑した。 「からかい甲斐のあるガキだからな。退屈しねえ」  ようやく画面を消してくれた潤歩がそのまま俺の隣に腰を下ろす。俺は赤くなった頬を冷まそうと、残りのコーラを一気に飲み干した。 「お疲れ、潤歩。大雅(たいが)も終わったのか?」 「……終わった」  竜介の問いに答えたのは、テーブルの横に立っていた大雅本人だった。いつからそこにいたのか、相変わらず眠そうな顔だ。 「大雅もお疲れ。立ってないで座りなよ」  そう言って一番奥の獅琉がスペースを詰めると、こくりと頷いた大雅が竜介の隣に座った。金髪の似合う大雅は俺と同じ十八歳だけど見た目は俺よりずっと大人っぽくて、何よりも凄く綺麗な青年だった。性格は大人しく口数も少ない。  極度の人見知りで初めは素っ気ない態度を取られたけれど、慣れれば誰よりも懐っこい。……ちなみに彼が竜介を慕っているということは周知の事実だけど、当の竜介だけは知らない。見た目の割に鈍感だからだ。
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