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「俺は忘れません……みんなの俺を見るあの目、そして俺を置いて一目散にみんなが逃げて行ったことを……」
「ご、ごめんごめん。亜利馬、そんな怒らないで。機嫌直して、ほら」
温かいスープを作ってくれた獅琉が、布団に包まった俺の口元へとスプーンを差し出す。優しいコーンの味が体に染み入るようでほっこりしたが、違う。俺は怒っているのだ。
「亜利馬、悪かった。お前の好きなアイス買ってきたぞ、食うか?」
「食います」
「……亜利馬、置いてってごめんね。俺もびっくりしたから」
「いいよ、もう」
「気にすることじゃねえだろ、たかが髪が顔に引っ付いたくらい。よくある話だろ」
「う、潤歩さんのバカ!」
思い出してまた怖くなり、俺は布団の中に潜り込んだ。
「亜利馬ぁ」
「そんな頭まで潜ってたら、布団のお化けが出るぞ」
「っ……」
仕方なく顔だけ出して、また一口スープをもらう。三口目のスープをもらった後で、俺はふと気付いてロッジの中を見回した。
「……夕兎さん達、戻ってないんですか? 鍵開けてまたどっか行ったのかな?」
「あ、そういえば連絡きてたよ。『俺達は少々夜の闇に紛れてくる』って」
「なんだそりゃ、風俗でも行ってんじゃねえだろうな」
「それはないと思うけど……大丈夫かなぁ。変な目に遭わなきゃいいけど」
「………」
時刻は十時。そろそろ寝ても良い時間だけど、まだみんな睡魔が降りてきていない様子だ。普段は暇さえあれば寝ている大雅でさえ、まだ目がぱっちりしている。
「よし、それじゃあよ。フリーズの奴らが帰って来た時にイタズラして驚かせてやろうぜ」
「だ、駄目ですよ潤歩さん。そんなことしたら皆さん怒りますよ」
「大丈夫だっつうの。ちょっとした可愛いイタズラだ。……俺達全員で寝たふりしてよ、奴らが入ってきたところで、全員で『ワーッ!』って感じ」
しょうもないイタズラだけど、これはやられた方は瞬間的にかなりのダメージを受ける。単純でシンプルな脅かし技だ。
「よし、そうと決まれば全員布団に入れ!」
潤歩に言われるまま俺達は布団に潜り込み、フリーズメンバーの帰りを待つことにした。いつ帰って来るか分からないから、取り敢えずは寝転がってお喋りを楽しむ「修学旅行の夜」状態だ。
「海のやつ怖かったねえ。でもあれ本当に髪の毛だったのかな?」
「細~い海藻だったかもしれませんよね。俺はそう思い込むことにします」
「明日また見に行ったら残ってるかもしれねえぞ。確認しねえとな」
「も、もういいですってば……ていうか夕兎さん達戻ったらシャワー浴びないと……」
話していると、ふいに外から足音が聞こえてきた。いよいよフリーズの三人が帰ってきたらしい。俺達五人はにんまりと笑って頷き合い、各々転がって寝たふりをした。
「………」
ロッジのドアへ続く階段を上がる音。ドアノブが回る音……ドアが開く音。
部屋の中に入ってきた音──今だ!
「うおぉぉぉぉっ!」
「うわああぁぁっ!」
俺達は一斉に布団を跳ね除けて立ち上がり、両手をめいっぱい上げてポーズを取りながら三人を恐怖のどん底へと叩き落とした……はずだった。
「……あれ? いない……」
そこには誰もいなかった。確かにドアは開いているし、部屋の中に誰かが入ってきた気配はあったのに。布団の端っこを踏まれる感覚もあったし、息使いも感じたのに。
「………」
「………」
無言のまま混乱する俺達の背後で、再び物音がした。
一斉に振り返ると、そこには……
「遅くなってすまなかった。煙草売ってる場所を探すのに時間がかかってな」
「亜利馬くん、ただいま! 今日は一緒に寝ましょうね!」
「……どうしたんだ?」
そこにいたのは今度こそフリーズの三人だった。黙って彼らを見つめる俺達を、三人は不思議そうな顔で見返している。
「えっと、……その、今日は八人全員で一緒に寝ませんか……?」
俺の提案に、ブレイズメンバー全員が頷いた。
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