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翌朝もカラッと晴れていて、絶好の海日和だった。
「……やっぱ海藻だった。捨てておいた」
見に行ってくれた大雅の報告を受けて胸を撫で下ろした俺達に、山野さんから撮影準備をしろとの声がかかる。
昨日の撮影ポイントと同じ場所で、獅琉と夕兎が海をバックに向かい合い、顔を寄せる。表のジャケットはリーダーであるこの二人がメインで、俺達は顔のカットが載るだけだ。
「獅琉くん、ちょっとだけ夕兎くんを攻める感じでポーズ取ってみて。夕兎くんは発情してる顔で視線こっちね」
メインの撮影が進む中、俺達は日陰でしばし休憩だ。
「だけど昨日の偽フリーズは何だったんだろうな」
竜介の呟きに「うーん」と首を傾げながら、俺は隣に座っていた秋常の顔を見つめた。その視線に気付いた秋常が、身をくねらせながら俺にしな垂れかかる。
「どうしたんです、亜利馬くん。そんなに見つめられると俺、照れて蒸発してしまいますよ」
「……秋常さん、本物ですよね?」
「うん?」
怖いというより不思議な話。イタズラを計画していた俺達が、逆に化かされたみたいな話。
「悪いことはするモンじゃないってことかなぁ」
「よく分かりませんが、亜利馬くんのイタズラなら大歓迎ですよ!」
「はぁ」
空は晴れ、海も青い。昨日の不気味さなんて微塵も感じられない、どこまでも爽やかな七月下旬の浜辺。波打ち際では二人の美青年がカメラの前で笑ったりキメ顔を作ったりしているし、傍には仲間もこんなにいる。
「次、お前達も一人ずつ撮影するぞ。ブレイズのナンバー順に来てくれ」
結局のところ、目の前の光景が綺麗で気持ちも晴れやかなら、ちょっとくらい不思議なことが起きてもすぐに忘れてしまうのだ。それって、日常が充実してるってことなんじゃないかな。
「亜利馬、早く来い!」
「え……、も、もう俺の番……?」
こうして初めてのコラボ撮影は、一応……? 無事に終わったのだった。
*
「みんなっ、山野さんから連絡きたよ! 前に言ってた俺達の企画!」
数日後、会議室で昼食を取っていたら獅琉がスマホを掲げて駆け込んできた。
「ほんとかっ!」
箸を置いて立ち上がり、獅琉の周りに集まる俺達。ドキドキしながらスマホ画面を覗き込むと、そこには山野さんからのメールで「最終決定事項」と書かれていた。
「読むよ。えーと……『ブレイズの五人で挑む企画は……家族モノに決定』だって!」
「やった! 俺の出した案だっ!」
「まだ続きがあるよ。『従順な末っ子亜利馬を、親兄弟による異常なほどの愛情で嬲り尽くす』……だって」
「え……」
従順な末っ子。異常なほどの愛。……嬲り尽くす。
「ぜ、全然違いますっ! 俺が言ったのはアットホームな家族モノって感じで……!」
堪らず獅琉のスマホを奪い取ろうとした俺の肩を、潤歩の手ががっしりと掴んだ。
「色々な案を混ぜたんだろ」
続いて反対側の肩に竜介の手が乗る。
「ハードな家族モノってことか。面白そうじゃないか」
最後に俺の顎をくいと持ち上げて、大雅が笑った。
「楽しみにしててね、亜利馬」
違う。こんなの、望んでない──。
「とにかくテーマは家族愛だから、もう少しだけ合宿は続きそうだね。その間に俺達も『亜利馬に執着する狂った家族』を演じれるように頑張ろう!」
「おー!」
「い、嫌だあぁぁっ!」
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