亜利馬、18歳のお仕事

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 それからファミレスを出て飲みに行こうという話になったけれど、俺は明日も朝早くから仕事が入っていたからそれを断り、一人部屋へ戻ることにした。酒豪の竜介と悪酔いする潤歩と飲めば飲むほど自由度が更に加速する獅琉。そして、未成年の立場から飲むことは無いが絶対に酔い潰れた先輩達の面倒は見ないであろう大雅。この四人と飲みに行ったら、間違いなく明日は遅刻してしまう。 「今日はもう風呂入ってすぐ寝よう……」  独り言を呟いて五階でエレベーターを降り、獅琉の部屋の隣でもある504号室へ向かう──と、部屋のドアの前に知らない男がいるのに気付いた。 「……?」  男はこの暑いのに全身黒ずくめの服装で、その割には日焼けしていて、銀髪で、ちょっとアレな雰囲気を醸し出している。そして何をするでもなく俺の部屋のドアをじっと見つめていて、何だか形容し難い薄気味悪さを感じた。 「あ、あの……」 「ん」  男が視線を俺に向けた。そして── 「その顔、見たことがあるな。……お前が亜利馬か。思っていたよりもずっとチビだな」 「………」  いきなり失礼なことを言われ、俺もムッとして言い返す。 「どなたですか。人んちの前で何やってるんですか」  男が唇の端を弛めて嗤い、体ごと俺に向き合った。別に俺をチビ呼ばわりできるほど背が高い訳でもない。顔立ちは男前だけど、人を見下したようなその目付きが怖くて思わず体が強張ってしまう。  そんな俺を見て更に可笑しそうに嗤った男が、銀色の髪をかき上げて言った。 「俺の名は夕兎(ゆうと)。夕刻の兎と書いて夕兎。『フリーズ』のリーダーだ」 「フリーズ……?」  考え、すぐにピンときた。 「も、もしかして、ブレイズのライバルグループの人ですかっ?」 「驚いたか。いかにもこの俺が──」 「うわぁ、凄いっ! 初めまして! ブレイズの亜利馬です! これからよろしくお願いします!」 「何だ貴様っ。き、気安く触るなっ!」  感極まって駆け寄りその両手を握りしめてしまった俺を、夕兎と名乗った彼が顔を真っ赤にして振り払う。 「あ、すいません、つい……。ずっとライバルグループの話してて、どんな人だろうって思ってたので……。ところで夕兎さん、何か御用ですか?」 「……お前のとこのリーダーはいるか。今日は挨拶を兼ねた宣戦布告に来てやったんだ」 「獅琉さんなら、飲みに行きましたよ。多分、帰ってくるのは真夜中か明日の朝になると思いますけど」 「……飲みに……」  舐められたモンだな、と夕兎が吐き捨てた。──何だか、無理してるなと思う。この黒ずくめの服とロングコートもそうだけど、喋る言葉も芝居がかっていて、わざとそういうキャラを演じているみたいだ。 「何か伝言があるなら、伝えておきますけど。……あ、それと獅琉さんの部屋はここじゃなくて、一つ隣の505なんです。ここは俺の部屋ですよ」 「そんなことは分かっている。別に間違えた訳じゃない」 「なら良いんですけど……それで、何か伝言があれば」 「獅琉に伝えておけ。貴様の人気もこれまでだとな。ブレイズだか何だか知らんが、俺達がお前らを叩き潰してやる」 「ええと……『きさまの、にんきも……』」  スマホのメッセージ画面に文字を入力しながら、やっぱり彼は何か無理をしているなと思った。 「あ、返信きましたよ。早いな」  確認し、画面を夕兎に見せる。 『りょ~かい! ていうか今、潤歩がロシアンたこ焼きでカラシ入りのやつ一気に食べて悶絶してるんだよ。動画見る?』 「………」 「多分、酔ってるんだと思いますよ。明日また改めて伝えておきますから」 「……覚悟しておけ。必ず後悔させてやる」  わなわなと肩を震わせていた夕兎が、無言のまま踵を返して階段の方へと歩き出した。 「エレベーター、こっちですよ」 「うるさい!」  ──やっぱり、無理してる気がする。
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