亜利馬、18歳のお仕事

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 夕兎の言い分はこうだ。  昨日あの後一階の自分の部屋へ戻ろうと階段を下りていたら、俺に飛びつかれたことを思い出して急激に恥ずかしくなり、慌てて階段を踏み外した── 「そ、そんなの俺のせいじゃないですっ! 勝手に自分で転んだんでしょ」 「お前のせいだ! 治療費と慰謝料を請求するからな!」  食事中の俺達に向かって唾を飛ばす夕兎。たまりかねた獅琉が箸を置いて立ち上がり、「まあまあ」と夕兎の肩に手を置いて笑った。 「亜利馬のしでかしたことは先輩である俺の責任でもあるからさ。文句があるなら俺に言ってよ」 「うるさい、すっこんでろお前は──」 「俺達を叩き潰すって言ったの、君でしょ?」 「っ、……」  獅琉の声のトーンが低くなり、真正面からはっきりと夕兎を見据えて、言った。 「その意気込みは別に構わないけど、俺達がただ黙ってやられるとは思ってないよね」 「何だと、貴様……」  まさに一触即発の雰囲気だ。獅琉と夕兎はあと数ミリでキスしてしまうのではと思うくらいの至近距離で睨み合っている。 「わ、ちょっと、止めてください二人とも……!」 「ブレイズの獅琉。貴様はこの俺が直々に叩きのめしてやる。いつまでもインヘルのトップに居られると思うなよ」 「別に思ってないよ、気付いたらトップになってたってだけでさ。君のことは知らないけど、貴様呼ばわりされる理由が分からないな」 「ああぁ、煽らないで獅琉さん……!」 「……まあいいや。そんなわけで、よろしくね。フリーズの夕兎くん!」  最後はニッと爽やかな笑みを浮かべて、獅琉が再び椅子に座り箸を握った。 「………」  食事を再開させた獅琉の前で、夕兎は今にも牙を剥きそうな顔で立ち尽くしている。彼から出ているそれは、後ほんの少し何かのきっかけがあれば暴力沙汰になってしまうのではと思うほどの殺気だ。  見ていられなくて、俺はコンビニ弁当に入っていた唐揚げを楊枝に刺して夕兎に向けた。 「食べますか?」 「……要らん!」 「実はあの後、夕兎さんのDVDをサイトで検索したんですよ。凄いハードな企画ばっかりで、正直言ってびっくりしました」  それを聞いた獅琉が反応して、「ハードなのってどんな風?」と俺に訊いた。 「えっと、インヘルから出てるのはあれですよね。緊縛とか逆レイプとか、鬼畜系の企画」 「へえ! 凄いね君、チャレンジャーなんだ!」  性に対しては何にでも興味津々の獅琉だ。さっきのドスの効いた声とは真反対の嬉しそうな声で夕兎を褒め、箸を持ったまま立ち上がって彼の肩を叩いている。その目はきらきらと少年のように輝いていた。 「そ、そうだ。俺はお前達とは違う。理解したか!」 「した、した! ねえ、緊縛ってやっぱプロが縛ってくれるモンなの? プロの縛りだとやっぱ気持ちいい?」 「なっ、何言ってるんだお前っ……急にそんな話を……!」 「あと逆レイプの企画ってさぁ、やっぱタチが喘ぐ感じになるの? それって凄い興奮するんだけど」 「何っ、……何なんだお前はっ!」  ぐいぐいと獅琉に迫られて真っ赤になってしまう夕兎。……多分彼は、俺と同じタイプだ。Vの中では割とチャレンジャーだけど、実際の性格は恥ずかしがり屋で下ネタに弱い。恐らくそれを、黒ずくめの暗黒キャラ設定で隠しているのだろうけど…… 「いいね。俺もタチの時がっつり縛られたりしてみたいかも。Mじゃないけど無抵抗な状態でセックスしてみたい願望ってあるよね」 「……、っ……」 「し、獅琉さん。そこまでにしてあげてください。これ以上は夕兎さん、鼻血出ちゃいます!」 「出すかぁっ! ……もういいっ、とにかくお前ら覚悟しとけ!」  限界点に到達したらしい夕兎が、その名の通り兎みたいな速さで会議室を飛び出して行った。 「何だか忙しい子だね。面白いけど」 「リーダーがあんな感じってことは、他のメンバーもメンズレーベルから出してるモデルなんですかね」 「多分そうだと思うよ。他の子とも早く会いたいなぁ。わくわくするね、亜利馬」 「はい!」  とは言ったものの、恐らく俺と獅琉の「わくわく」のベクトルは若干違うのだろう、と思う。
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