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頭の中では幽霊なんていないと、魂なんて概念非科学的なことであると彼女の存在を全否定している。しかしながら、憧れを抱いていたマリー・アントワネットという存在が目の前にいると思うと、僕は非科学的とかそういったことがどうでもよく思えてきてしまうのだった。
「ねえ、よかったら私を遊びに連れて行ってくださらない?一人だと何処へ行っても寂しくてつまらないの」
「僕なんかでよければ、是非!」
僕は生まれて初めて女の子とデートをした。初めてのデートが幽霊だなんて少し寂しいが、初めてのデートがマリー・アントワネットだなんて贅沢すぎるだろう。というか、人妻じゃないのか?
僕はマリーの手を握ろうとしたが伸ばした手は虚しく空を掴んだ。彼女は苦笑すると、僕に寄り添うように歩いてくれた。
彼女といるだけでいつもの町が輝いて見えた。何気ない風景が、日常が、とても素晴らしいものに思えてくる。会ったばかりの女の子をこんなに好きになってしまうなんて物語の中の出来事のようだった。
「今日はありがとう。凄く、楽しかった」
彼女は名残惜しそうに少しだけ距離を取る。
「また、会えるかな……?」
たぶん、彼女に依存してしまったら自分のためにはならないのだろう。彼女は現世の人間ではない。でも、それでも。この気持ちに嘘はつけなかった。
「ありがとう……また、会いに来るから」
気がつくと彼女の顔が目の前にあった。少しだけ唇が触れた気がした。
「本当は駄目なんだろうけれど……貴方には覚えていてほしいな……」
夕暮れに染まる坂道の途中で彼女の面影が揺れている。涙が零れそうになった。なんで今日会ったばかりなのにこんなにも彼女のことを好きになってしまったのだろう。
「私とデートしたこと……私のことを……」
ああ、駄目だ。それ以上は、堪えた涙が溢れる前に言わなくちゃ。さよならって。
「私、マリー・セレストと出会ったことを」
僕は一瞬何を言っているのか理解できなかった。そう、彼女はマリー・アントワネットではなかったのだ。
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