憧れのマリー

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大学の入学式が終わり、僕は1人で帰路についていた。同じ高校の友人から寄り道に誘われたが、僕はそれを断り1人寂しく歩いていた。いつの間にかあたりは日が落ちかけており、黄昏が僕の背を照らしている。僕は何の気なしに下ってきた坂道を振り向いた。 「久しぶりね」 僕は目を見開いた。あの時のままの姿で彼女の面影が揺れていた。しかしながら、やはり彼女に影は出来ておらず、幽世の住人である事を証明していた。 「また、会えたね」 僕はあれからマリー・セレストという人物を調べた。実在していたのかは分からないが、幽霊船の名前だった。まさか、彼女が悪霊であるとは思ってはいないが、もう別に悪霊だろうとどうでもよかった。 「このまま振り返らなかったら何も言わずに帰るつもりだったのに、どうして気づいたの?」 マリーは目に涙を溜めて言った。僕はそれを拭ってあげたかったけれど、行き場を失った手は虚しく空を切った。 「分かるよ。僕は、君のことが好きだから」 拭うことの出来なかった涙は雫となって落ちていく。 「一緒に生きることは出来ないかもしれないけれど、それでも一緒にいてくれる?」 「うん、ずっと一緒にいよう」 これが、それまで誰からも必要とされなかった僕と、誰にも気づいてもらえなかったマリーの出会いだった。
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