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「次走者に襷を繋ぐ瞬間も、バッチリとガン見できたしね。ファン冥利に尽きるなぁ」
駅伝ランナー、東堂秀次が最も輝く瞬間だ。
走って走って走って、辿り着いた中継所でチームメイトに襷を渡す瞬間の秀次くんの表情が、僕は大好きなんだ。
黙々と走り続けてきたその人が次走者に声をかける、ほんの数瞬に見せる絶対的な信頼の表情が。
「いつか、僕もあんな風に秀次くんと向かい合える時が来るかな。厚い信頼を寄せ合える時が……そんな日が来たら、いいなぁ」
無理かもしれないけど、という言葉は飲み込んだ。
僕は秀次くんを大好きだけれど、一つ違いの彼と出会って八年、二人の関係はずっと変わらない。ただの幼馴染で、単なる先輩と後輩。
所属する部も違うから、厳密には先輩後輩としての接点も薄い。
幼馴染という看板をふりかざした僕がストーカーのように纏わりついて、やっと、他の生徒たちよりも親しい間柄になれてる、かも? と小さな自信を持てる程度なんだ。
「うぅ……冷静に自分の立ち位置を客観視したら、なんか悲しくなってきた。あー、だめだめ! 落ち込む暇があったら、お祝いメッセージでも送ろうっ……ん? あれ? 着信?」
『熱い応援、サンキュ。めちゃ励みになったぞ』
え?
「ええぇっ?」
画面を二度見した。高速で文章を読み返し、送信元のアイコンもガン見する。
「……うわぁ」
そして、見間違いじゃないことを確認した。ちょうど今、区間賞のお祝いを送信しようとしていた当の本人から届いたメッセージは、僕がこの中継所に応援に来ていることにその人が気づいていたと告げているんだ。
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