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乃木と児玉
1904年12月1日
旅順方面 第3軍司令部
児玉源太郎は調教された100羽のフクロウとともに満州の煙台の司令部から汽車で旅順に来ていた。
旅順港が見える203高地を目指して攻撃を担当する第3軍・第9師団は今夜の突入を前にして参謀会議を開いていた。
「今夜、海軍の要請により203高地を落とす」
乃木が静かに言った。
ここを占拠することによって旅順港が一面に見渡せることができる。
すなわち203高地に観測所を作ることによって海軍の要求通りバルチック艦隊が日本海付近に来る前に旅順艦隊を陸上砲の関接射撃で撃滅することができるのだ。
なんとか夜間攻撃に乗じてこの山頂を落とす作戦であるが今まで幾万の兵士を死に追いやった機関銃と対峙しなければならない。
しかし今日はその銃眼を黙らせる「最新兵器」を用意している。
「本日の夜間攻撃にフクロウを使う」
児玉が居並ぶ参謀たちを前にしてこう言い放った。
「フクロウ?児玉閣下、気は確かでごわすか?」
第3軍の参謀長伊地知幸助が児玉に尋ねた。
薩摩出身の伊地知は砲兵の専門家である。
「気がおかしいのはお前のほうだ!」
「今まで数多くの兵が落とせなかった要塞をフクロウが攻撃するなんぞ聞いたことがないでごわす」
「伊地知それでは聞くが、同じ戦法で兵士をむざむざ犬死にさせているお前は他に打開する策があるのか?あるなら言ってみろ!」
児玉は激怒して口答えする伊地知の参謀肩章を引きちぎった。
「伊地知さん、児玉参謀長の言うとおりフクロウを使おうじゃあないか」
ゆっくりと乃木が決断を下した。
「わ、わかりもした。乃木司令官がそうおっしゃるなら今夜そのフクロウ部隊を使うことにしもうす」
「しかし児玉参謀長。そのフクロウを使って敵さんの要塞は本当に落とせるのかな?」
乃木が気心の知れた昵懇の児玉に問う。
「それが簡単にできれば苦労はせんのじゃがな・・・」
「閣下、ですからちゃんとフクロウ(不苦労)という名前になっております」
傍らで聞いていた佐川大尉が自信ありげに答えた。
「そうだな、その名前の通り上手くいくことを祈ろう・・・」
作戦会議は終了した。
※※※※
参謀本部の傍らにはフクロウの鳥かごが並んでいる。
佐川大尉が鳥かごの中でキョロキョロしている愛らしいフクロウたちに申し訳なさそうに言った。
「みんなすまんな・・・これも御国のためと思ってくれ」
※※※※
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