そこから旅順は見えるか!

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そこから旅順は見えるか!

午後8時 第9師団が203高地の一方の山の頂にとりついた。 周りに配備してあるロシアの各砲台からは登ってくる日本兵士を狙った機銃掃射が雨のように降ってくる。 その玉を避けながらの行軍であった。 先頭の指揮官が日本刀を抜刀した。 「突撃」の合図である。 児玉は8倍のカールツァイスの双眼鏡で戦の成り行きを凝視している。 「よし、頃合だな。照明弾用意。目標203高地頭上!」 「照明弾用意できました。照準よし!」 即時に復唱が返る。 「よし、発射!」 児玉の命令とともに203高地の頭上に照明弾が上がった。 「よし、いよいよフクロウ殿の出番だ!」 と言うと源太郎は佐川大尉に鳥かごからフクロウを放つように命令した。 闇の中を照明弾を目指して空高く舞う100羽のフクロウは203高地方面に向かってまっしぐらに羽ばたいていった。 それはまるで後世の航空爆撃隊を思わすような壮観な眺めであった。 203高地の頂では弟9師団の香月中尉率いる香月隊が白刃を抜いてまさに鬼神のような白兵戦が行われていた。 そこに至るまでの山腹には日露両方の死体の山が累々と築かれている。 乃木希典の次男の保典もこの時に胸に銃弾を受けて死亡している。 「あともう一息、あともう一息で堡塁が抜ける」 山頂が見えるところまで来た全ての日本兵がロシア兵との白兵戦の中でそう考えていた。 その時に白兵戦を戦う兵士が見た。 闇の中を多くの鳥たちがなにかを抱えて要塞の銃眼めがけて突進していく風景を。 直後、203高地の各要塞の中では身を震わすような大爆発が随所で起こった。 と同時にそれまでは日本兵を一切寄せ付けなかった機関銃がすべて沈黙したのである。 それを見た敵将コンドラチェンコ少将は新手の敵が地下道を通じて来たと思い多くの兵をそちらに差し向けた。 地下の火薬庫が敵の手に落ちればこの戦いの帰趨は決っしてしまう。 その間隙を縫って第9師団は一気に前面の敵堡塁に突進していったのである。 砲と機関銃が沈黙し兵力が2分されたロシアの要塞は後はもう残敵掃討戦の様相を呈していた。 激しい戦いが終わり一夜が明けた。 「そこから旅順が見えるか!」 その言葉の後に源太郎は今は亡きフクロウのことを思い浮かべるのであった。 「見えます。艦隊が丸見えであります!」 日本はフクロウの決死隊によって救われたのであった。 切り札はフクロウであった。 現在203高地には人知れずこの戦いで散ったフクロウの霊を沈める忠魂碑が建立されている。
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