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吐露編
とりあえず、仕事は休暇ということにしよう。
店長にそう説得されてしまった。
なんだかんだであの人は、とても口が上手いのだ。
だから、アオイの代わりにメッセージをやり取りすることになったし、仕事を辞める事も出来なかった。
けれど、そんなものは無視して別の仕事をしてしまえばいいということも知っていた。
実際、ある日突然店にこなくなる女の子は時々いる。
別にそれだって店は回っているし、何も変わらない。
急に、昼間起きている生活ができる訳もなく、仕事をしない生活も性格的に無理だった。
とりあえずで選んだのは、コンビニの深夜バイトだった。
空が白んだ頃だった。丁度、バイト終わりでコンビニを出るとそこに、堺がいて驚いた。
偶然というものはあるのだろうか。
コンビニの駐車場に止められた車に寄りかかる堺を見つけて正直驚く。
「は?」
けれど、思わず出た言葉は、驚愕というよりは、拒絶に近いものだった。
偶然ですね、で自分だけ思い出に残るのは嫌だった。
かといって、友達になる様な、そんなものでもない。
我儘だ。
自分自身が一番分かっている。
少しずつ忘れてしまいたいと思ってしまったものが目の前にいて、どうしようも無かったのだ。
「お久しぶりです。
覚えていてくれたみたいで良かった。」
ほっとしたように笑う堺が、何故そんな風なのかが分からない。
前に行った事のある店のボーイにたまたま会っただけでする顔じゃない。
頭がガンガンするのは朝方だからじゃない。
堺は大きく息を吸って吐いた。
それから何か、覚悟を決めた様な顔をした。
「虹は綺麗でしたか?」
彼がその後最初に言ったのは、虹の話だった。
それが、彼が見せてくれた虹の話しではない事に気が付くまでに、少しだけ時間がかかった。
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