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最後のメッセージがそれだった。
自分の気持ちを伝えてしまった言葉だった。
しらを切った方がいいのかもしれない。
それは俺じゃないと言い張った方がまだしもマシなのかもしれない。
ただ、店で見せてもらった虹の写真の事だと返せばいいだけだ。
なのに、上手く声が出ない。
自分の言いたいことと、言うべきことがあっていない。
結局、俺の口声が出たのはやや時間があってからだった。
「……綺麗、でした。」
どっちともつかない言葉が、ぽつんと出ただけだった。
それなのに、堺はとても嬉しそうに笑った。
「そうか……。」
それから、「ちょっと、ちゃんと話をしたいから場所を移そうか?」と言ってこちらに何かを差し出した。
それは財布で、ちょっと意味が分からなかった。
「私が、君を騙そうとか危険な目に合わせると思ったら、それを持って逃げればいいだろ?」
女の子じゃあるまいし、何故そんな風に言うのかが分からなかった。
それに、俺は知っているのだ。この財布に入っているクレジットカードの限度額が俺の持っているカードと比較にならない事も。
「いや、別にいいです。」
むしろ、俺の方が悪用できるかもしれないじゃないか。
「それに、俺女の子じゃないので。」
そう答えると、堺は不思議そうな顔で「知ってるよ。」と答えた。
どう返事をしたらいいのか分からず、助手席に乗り込む。
高級車と知られる車の乗り心地は、思った以上によい。
普通であれば居眠りでもしてしまいそうな軽やかな運転なのに、眠気はまるでない。
それよりも、自分の心臓がいい年をして、バクバクと脈打っている。
「どこへ行くんですか?」
「どこがいいですか?
海まで行こうか? それとも私の家でも――」
堺がどういうつもりか分からなかった。
俺を詰問するつもりにしろ、アオイとの仲を取り持つにしても、海だの堺の自宅だのは不釣り合いに思えた。
「俺を軽蔑しているんじゃないんですか?」
堺はこちらをちらりと見ると、路肩に車を止めた。
早朝の道路は人通りも、車の通りもあまりない。
時々トラックが通りすぎるだけだ。
「まさか。そうじゃない。」
堺がこちらを見る。
堺の言う通り、そこに怒りとか侮蔑の様なものは何も浮かんでいない。
というより、むしろ、これは……。
毎日の様に色恋営業を間近で見てきたのだ。
表情に浮かぶそういったものを読み取るのは、どちらかといえば得意な方なのだろう。
「多分、私は君の事が好きなんだと思う。」
堺らしい告白だと思った。
けれど、なんで俺なのだろう。
「ああ、良かった……。」
ホッとしたような声で堺が言う。
顔が赤くなっているだろうという事には自分自身でも気が付いている。
聡い男なのだろう。
それこそ、一人で俺がメッセージのアオイだと気が付く位には。
「これも、お見通しみたいですが、……俺も、あなたの事、好きですよ。」
俺の言葉に、初めて見る甘ったるい笑顔を浮かべてそれから「まず、君の名前を教えてくれるかい?」と聞いた。
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