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続
その人を見た時の印象は、ああメッセージの文章そのまんまだという感じだった。
それなりに整っている様に見える顔は、どことなく地味な印象にかき消されてしまっている。
事実メッセージのやり取りをするまで何度も来店している筈の人間の顔なのにまるで思い出せなかった。
主に、接待や会社の若手のために使ってるらしく、今日も誰かと連れだって来店していた。
堺という男のテンションの低さに対して同行した男は上機嫌だ。
曖昧な笑顔を浮かべて静かに話しているだろう男は薄暗い店内で逆に目立っている様に見えた。
◆
「ちょっと、キミ。済まないけど……。」
呼び止められた方を見て、驚く。
堺が困った顔でこちらを見ていたのだ。
思わずメッセージをした内容を言いそうになって思わず口をつぐむ。
「何か不手際でもありましたでしょうか?」
恐る恐る訊ねると「違う違う。ちょっと水を一杯欲しいだけなんだけど。」と言って笑われた。
メッセージより少しだけ砕けた言い方なのは俺が男だからだろうか。
「お席にお持ちしますか?それともそちらで飲まれますか?」
そちらと言う時に目線と手で示したのはカウンタースペースだ。
「じゃあ、ここで一杯飲んで戻ってもいいかな?」
本当はいけないのに、ミネラルウォーターをグラスに注いで差し出す。
後でお小言があるのかもしれないけれど、メッセージの人間と話してみたい気持ちの方が上回ってしまった。
「あんまりこういったところ得意でなくてね。」
そうでしょう。明らかにメッセージもそして今もこの人は場違いだ。
勿論女慣れしていないせいで挙動不審になる人間はいるのだけれど、そういった人間とも明らかに違うのだ。
「っと、キミの職場を悪く言うつもりは無いんだ。」
返事をしなかった俺が気分を害したと思ったのか堺は慌ててそう付けたした。
「いえ、大丈夫です。」
俺が営業用の笑顔を浮かべると、堺は納得したのか静かにグラスの水を飲み始めた。
それから、ゆっくりと時間をかけてその水を飲み干すと「ありがとう。助かった。」と俺に伝えて、騒がしいテーブルへと戻っていった。
◆
【さかいsan昨日はお店来てくれてありがとう❤(W´ω`W)❤】
今日も女の振りをしてメッセージを送信する。多分きっと本当に女の子が嬉しかった時はこんな風なメッセージにならない事を知っている。
しばらくして堺から
【こちらこそ、大変助かりました。】
という返信が来て一瞬ドキリとして、それから恐らく昨日の同行者が堺にとって大切な客か何かで、もてなしたお礼なのだろうと思い至る。
当たり前だ。あくまでもこれはアオイとして送っているメッセージで、昨日のボーイの事など既に忘れてしまっているだろう。
それなのに、まるで自分の事を言われたと思うなんて自意識過剰もいいところだ。
思わずスマホを見つめながらため息をつく。
馬鹿みたいなやり取りでしか繋がっていない相手に対して何か期待をするなんてそれこそ馬鹿の極みだ。
アオイのスマートフォンを彼女自身に返すと、今日こそこの馬鹿みたいな代筆の仕事をやめさせてもらえるように交渉しようと心に決めた。
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