第二話 痛むのは

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第二話 痛むのは

ドアを開けた先、手前のベッドに祖母が寝ている。 息をひとつ吐くと、カーテンを開けた。 「おばあちゃん、久しぶりだね…」  そう言って祖母に近付く。  後に続く言葉は無かった。  この時感じた衝撃をなんと表せば良いのだろう。  記憶に残る祖母とは全く違い、七十代手前の女性とは思えない。  九十過ぎにも見える。  そして、想像以上に痩せ細った身体。  頬の肉も削げている。  ──ここまでだとは思わなかった。  いや、分かっていた。  死期が近いということは、こういう事なのだと。  ──自分の描いていた想像が甘かったというだけだ。  荷物を置いて、祖母の手を握る。 「……ごめんね、来るのが遅れちゃって」  ──重くなった心に引きずられそうだ。  足を引っ張られてゆく感覚から現実へ戻ると、眉の寄った祖母の顔が目に入った。  ──今、彼女は何を思っているのだろう。  喋れない祖母の気持ちを測ることは、ぼくには出来ない。  だから、苦しみが少しでも(やわ)らぐようにそっと手を包み込む。 「じゃあ、先生の所に行ってくる」  そう言って、祖父は病室を出ていった。 「……変わっちゃったでしょう」 「…うん」  母の言葉にも、曖昧(あいまい)に頷くことしか出来ない。 「私、トイレに行くから」 「分かった。行ってらっしゃい」
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