第二話 痛むのは

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母も出ていき、カーテンの中はぼくと祖母の二人だけ。 「おばあちゃん…」  ──何か、何か話をしないと。 「あ、あのね…」  喉に言葉が詰まって出てこない。  会ったら話そうと思っていた話題も空気となって消えてゆく。 「あの………」  ──泣くな。  泣いては駄目だ。  頼むから涙よ、出てこないでくれ。  辛いのは本人だ。  本人の前で泣くのは失礼だと思うから。  哀しませたくはない。 ────笑え。 下手くそでもいいから、笑顔を作れ。  静かに深呼吸をして、口を開く。 「何を話そうかな…。あ、そうそう、小学生の頃母さんとおばあちゃんとぼくの三人で(はす)祭りに行ったのを覚えている?」  普段通りを(よそお)って話し出す。  一言口にする度に喉が焼けるようだ。  ──痛い。  心臓が、さっきまでとは違う痛みに暴れ出す。  それでもぼくは笑おう。  せめて話している間は、楽しかったあの頃に心が(かえ)ってゆくように。 「……それでさ、あの時食べたアイスクリームを覚えている? 珍しいアイスなのは覚えているんだけど──どんな味だったかはもう思い出せないんだよね」  あの日食べたアイスクリームの話をして、また違う話へと移る。 「あとさ、いつだったかな…出かけた先のお土産屋さんでぼくに蛇のキーホルダーを買ってくれたのは覚えてる? ぼくね、アレを今も大事に持っているんだよ。ほら、今日も持ってきたんだ」  ポケットから出したキーホルダーを手の上に載せる。  固く握られた手を(ほど)くことは出来ないから、せめて感触だけでも思い出して貰おうとする。  ──一回だけ鳴らした鈴の音は、今も心に残っているだろうか。  話しているうちに、自然な笑顔になれた。  それでいい。  少しでも安心してほしいから、ぼくは笑おう。  ぼくの事は心配しないで。  そう伝わるように。 「分かるかな。このキーホルダー、お気に入りなんだ。あの時は、本当に嬉しかったよ。ありがとう」  そう言うと、少し開いた口から声が漏れた。 「あ……あ………」 「おばあちゃん?」  (かす)れた声は、何を伝えたかったのだろう。  それも、聞くことは出来ないから、ただ手を握っていた。
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