第二話 痛むのは

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「どうだった?」  戻って来た母が聞いてくる。 「……うん、蓮祭りの話をしていたんだ。何か言おうとしてたけど…」 「そう………。きっと、優に言いたい事があるんだね」  眉を下げる母に自分もトイレに行くと言い、廊下へと出る。  トイレの個室へ入ると壁に寄りかかって上を向く。  両手で顔を押さえると、少しだけ手が濡れた。  不自然にならないように五分でトイレを出てまた病室へと戻る。 「あ、迷わなかった?」 「ああ、うん」  返事をしたとき、祖父が戻ってきた。 「……そろそろ帰るか」 「そうだね。あまり長くいるのもね…負担になると悪いからね」  荷物を取ると、祖母の手に載せたキーホルダーを返してもらい、強く手を握った。 「……おばあちゃん、またね」  熱くなる目元に力を入れて微笑む。  病院を出る前に振り返って、もう一度祖母を見つめる。 「っ……」  閉じたままの祖母の目尻(めじり)から透明な雫が一滴だけ頬を伝っていく。  閉まっていくドアの向こうに見えたそれは、ぼくの幻だったのだろうか。  消えた視界の向こうを確かめることは躊躇(ためら)われた。
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