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 父は四人兄弟の末っ子で、ずいぶんと気楽に育ったと聞いている。  実家は山の麓にある古い家で、今も祖父が一家の主として取り仕切っている。  昔は地主としてその土地を取りまとめていたらしく、今もその名残りか、ちゃんとした役職ではないが世話役を任せられている。  家の周りの山も祖父の土地だが、その山には山神さまがいるとして、昔から地域で奉られている。  盆と正月には親戚が集まり、その度に子供たちは大伯母から山神さまと家との関係を聞かせられていた。 「…この土地、そしてこの家はずーっと山神さまに守られているの。だから、山神さまに感謝を忘れてはいけないのよ」  毎回、大伯母の話はそこから始まる。  大伯母の言う山神さまは、山神さまと呼ばれているが本当は山神さまの遣いであり、しかも元々は人間で、昔々のご先祖さまの友人なのだという。  何故ご先祖さまの友人が山神さまの遣いとなったのか、そして何故この土地を守ってくれるのか。従兄弟たちと一緒に尋ねるが、 「その時がきたら、話してあげようね」  と言われて終わりになる。  そうして、子供たちは繰り返し繰り返し、山神さまへの感謝を忘れてはいけないと教えられるのだ。  本家では代々、当主とその家族が住んでいるが、基本的には長子以外はそれぞれ別の場所に居を構える。  現在、本家には当主である祖父とその長男家族が住んでおり、四男の父は母の希望もあって、山からはほど遠い県外に家を建てていた。  小さい頃は日頃の生活とは違うこの本家での生活が好きだった。  夏と冬の帰省は、一人っ子だったこともあって、従兄弟たちと遊べることも楽しくて仕方なかった。  ちなみに姓は『カミモリ』という。  それこそ大昔は『神守』と名乗っていたそうだが、今は『上森』と書く。  神守を名乗っていたからといって、神事を執り行う訳でもなく、敷地内に鳥居がある訳でもない。  地域の祭りや花火大会だって、もっと町中で行っているし、ちゃんとした神社だってあるのだ。  不思議なのは、その神社の宮司が毎年挨拶に来ることだった。  山神さまに……と、挨拶に来た宮司が離れに向かうのだ。  廊下続きのその離れでは大伯母が寝起きしており、子供たちは立ち入り禁止となっている。  母屋に住む従兄弟たちも例外ではない。
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