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渡り廊下に足を踏み入れようものなら、通いで家の手伝いに来ている「多恵さん」と「りんさん」に静かに怒られるのである。
言葉は丁寧だが、妙な迫力があって逆に怖いらしい。
ちなみにその2人は姉妹で、祖父たちの従姉妹だ。
何故従姉妹が家の手伝いに来ているのかを問うと、その時が来たらお教え致します。と毎回言われて煙に撒かれる。
子供だから話せないのか、また別の理由があるのかは分からないが。
不思議なことが多い家だった。
不思議なことといえば、もう一つ。
いつも親戚ではない男の人を見かけるのだが、何故か誰に聞いても見ていないと言われる。
最初にその人に気付いたのがいつだったのかは覚えていないが、物心がついた時には認識していたように思う。
従兄弟たちに聞いても、見たような見ていないような…と曖昧な答えばかりだったが、ただ1人、長兄の次男────拓海がどうやら同じ人を見ているようだった。
同い年の拓海は、何かと世話を焼いてくれ、よく一緒に遊んだ。
裏表がないが思ったことがすぐ口に出てしまうので、他の従兄弟とはよくケンカになっている。
そんな拓海はその人に対して良く思っていないようで、あからさまに警戒していた。
その人はいつも穏やかな笑顔で悪い人には見えなかったが、その人の姿を見かけるとすぐに手を引かれて別の場所に連れて行かれるのだった。
大人に聞いてもわからないから、結局その人が何者なのかはわからないままだ。
幽霊じゃないか、と拓海が言う。
でも、足はある。
合う場所も時間も、同じではない。
…そんな幽霊がいるだろうか?
ちゃんと生きている人に見えるのに。
それに、優しく見守ってくれている感じで、イヤな感じは一切ない。
それを言うと、拓海はいつも顔をしかめるのだけれど。
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