処刑

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男は眉間にしわを寄せていたが、数々の発言の意味を考え、彼の表情を見ているうちに、メガネ男子の目的が何となく読めた気がした。 「どうやって動画を手に入れたかは知んねーけど、仲間には入れてやんねーぞ?」 「仲間?心外だな。僕に今よりも残酷になれって言うの?」 そしてメガネ男子は静かに笑った。 「あのさぁ…僕は君たちと一緒に遊ぶつもりも警告をしに来たつもりもない。裁きを下しに来たんだ」 そう言った直後、スマートフォンを仕舞ったポケットの中から手を引き抜くと同時に、小型のナイフを取り出した。そして、メガネ男子は自分より少しだけガタイの大きい目の前の男の心臓部目掛けてナイフを振り下ろした。 一瞬の出来事だった。 瞬間、驚いたように声を発した男だったが、すぐに脱力して地面に倒れた。 それを見ていた他の男たちはただ驚きの表情を浮かべてメガネ男子を見ている。 「悪いことをしたら裁かれるんだよ。どこに逃げても僕は逃がさない。僕がこの手で裁いてあげるから。さあ…逃げるの?それとも戦うの?どっち?」 そう質問されてようやく我に返った。 自分達が勘違いしていたことに気がついたからだ。 目の前にいるメガネ男子はただの若者じゃない。自分達よりも遥かに残酷な青年に違いない。 これは遊びではない。目の前の若い男は平気な顔で人を殺せるイカれた野郎だ。 男たちはお互いに顔を見合わせたが、一言も話す事無く一目散に逃げだした。3人の男が別々の方向へと走っていく。 「逃げなよ。俺は絶対に逃がさないから……」 メガネをはずした青年は地面に横たわる遺体を見下ろし、ニヤリと笑った。 目を見開いたままの男の胸部から大量の血液が流れ出ていた。 しかし、通報されたのは数時間後の翌朝。 近所の住人が出勤時に遺体を発見するまで、男の遺体は冷たい地面に顔をつけたまま放置されていた―――。 <孤独のかけら・完> 『血染めの衣』に続く……。
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