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――2年前。
その日、架音は学校帰りに近所のスーパーに寄り、カレーライスの材料を買って帰ってきた。
朝、母親の美織から架音宛ての電話が学校に掛かってきて、“今日の夜に帰る”と、言ったからだ。
小学生の頃は同棲していた恋人がいたおかげで美織は毎日家に帰って来て、夜も一緒に過ごしていたが、架音が中学に上がる少し前に二人は大喧嘩をして別れた。
『きっとこれから幸せになれる』
美織と恋人がうまくいってた頃は毎日のように寝る前に枕元で頭を撫でて魔法をかけてくれた母も、その日を境に別人になった。
ほとんど家に帰ってこない母に対し不安を抱えた架音は、何度も公衆電話から美織の携帯電話に着信を残した。しかし、その電話も全て無視されてしまった。
今思えば、管理会社から家賃の支払い請求や、公共料金の未払い通告が来てなかった事を考えると、美織はちゃんとお金を払っていたのかもしれない。
しかし、家にはお金と呼べるものはなく、万が一の時につかえそうなものは、猫の形をした貯金箱に貯めた100円玉くらいしかなかった。それも、何枚入っているか数えた事も無いし、振ってみてもたいした量は期待できない程、微々たるお金。
架音は中学生になってから、近所のおじさんやおばさんがお年玉をくれても美織にそのお金の話をしなかった。それどころか、美織は年末年始すらまともに帰ってこない事もあり、話す機会も無かったのだ。
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