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テストが返却され始めた。出席番号順に呼ばれていく。 「うあーやべー」 「は!?うえーやべえやらかした!」 等ことごとく悲痛な声が聞こえてくる。どうやら平均点も低そうだ。しかも今回のテストは俺の苦手な数学。いよいよ初の赤点かもしれない...と一人覚悟を決めていると自分の番号が呼ばれ、テストを受け取りに行く。 「よくやったな、若松」 名前を呼ばれ、聞き間違えでは、なんて思いつつ点数を見ると、 98 と書かれている! 「お前なんぼ~...はああ!?なんだよお前!」 「そんなやべえの?うっわマジだ!すげえ!」 「うっわ~気持ちわる~!」 何が起こった?数学で98?ほんとに?名前あってる? ...うん、ちゃんと俺の名前だし俺の字だ。 現実だろうか...。夢と言われても違和感がない...。 しかしどうやら現実なようで、平均点が低いと(俺以外は点数が壊滅的)クラス全体が怒られ、数学の時間である3時間目が終了した。 そして次の授業は体育だった。 「よーし、じゃあ今日は...前回と同じようにサッカーをやっていく」 サッカーなら一応、得意な分野だ。しかも横では女子たちがテニスをしている...。よこしまな気持ちがないと言えば嘘になる。...いやまあ、好きな女子がいるという訳で、まあ少しでも良いところを見せたいというのは理解していただけるだろう...。 ちなみにその女子というのは深浦というロングヘアーが似合うお方である。クラスの中心というわけではないが、そのあたりもまたいい!さらに言うと性格もいい!無駄にキャピキャピしてるとこちら的にはちょっと疲れるしめんどくさい。しかし!しかーし!深浦さんはそんなことはない!でももちろん粗野というわけではない。なんというか、空気を読む力があるというか、なんというか。 「おい!そっち行ったぞ!」 気づいたら試合が始まっていて、いつの間にかキーパー前まで出ていた。 気付くのに一瞬遅れ、そのまま転がっていったボールは相手のディフェンスに取られ、そのままパスを繋がれゴールを決められた。 さらに言うとこの体育の時間には沢山の好プレーが生まれ、俺がもはや下手に見えてくる始末だ。3時間目とは打って変わって、という感じで、気分を落としながら校舎へと戻っていった。 昼休み、友人と昼食を食べながら3時間目と4時間目の格差について話していた。 「いやーお前周りと正反対だよなー最近」 「最近?そうか?」 「そーだよ、昨日も周りが宿題全員持ってきてたのにお前だけ忘れてきたじゃん」 「ああ、お前にしちゃ珍しくそうだった!」 「あとあとさ、昨日の帰りお前だけ傘持ってたじゃん」 「なーんか変な気分だなー」 「反物質ならぬ反人間か?」 「反物質?」 「まーよく反物資ってのも知らねえけど、なんとなく伝わるっしょ?全部が真逆っていうか、お前が上手く行けば周りが上手くいかない、周りが上手く行けばお前が上手くいかない、って」 「まー分かるけどなーでもそんな人間になっててたまるかって!」 「なーお前らちょっといい?」 そう声をかけてきたのは、クラスの中心的な星という奴だった。 「今さ、ちょっとアンケートしてんだけど」 そう言ってそれぞれに渡された紙には 『クラスのマドンナ決定投票!』 とあった。 「ツッコミどこあれだけど...マドンナって古くない?」 「あはは...それは結構言われた まあちょっとやってみてくれよ 秘密は守るから」 クラスの中心と言えども威張るような様子もなく、少なくとも外面は爽やかな星だ。もっとも性格までは保証出来ないが。 「どーする?書く?」 「まー書くっしょ みんな書いてる感じだし」 そう言って隠しながらそれぞれかわいいと思う女子の名前を書き始めた。もちろん俺は深浦の名前を書いた。 「お、書いてくれた?んじゃ集計するから待ってろ!」 書き終わるなり、そう言ってすぐさま回収された。 1分程で集計が終わり、男子が星の机に集った。 「うええ!すげえ!独走!」 そう声を上げた奴がいたように、ある女子の独走だった。ただ、深浦ではなかった。深浦に入れたのは俺だけのようだ。他は全員、その独走の奴に票を入れていた。 「誰だよ一人だけ~」 「気になるな~」 そう言う声に俺はただ笑っていた。 ここでさっき友達が言っていた言葉を思い出す。 『反人間』 どういう訳か、これは本当かもしれない。 そんなことを考えていると、突如、ドアが音を立て、床が揺れを伝え、急にバランスがとりにくくなった。 「えっ!えっ!なに!!」 「地震!?」 「やべえデカイ!」 「キャー!!」 誰も指示する先生がいない今、誰も机の下に隠れるなんてことは思い出せず、その場でしゃがみこんでいた。 周りで何かが落ちる音が聞こえる 教室のいたるところから、あるいは他の教室から叫び声が聞こえてくる。 スマホが一気に鳴り出し緊急地震速報を伝える。 様々な非日常が、恐怖を煽ってくる。 長い、長い、長い 終わりが見えない まだ強く揺れ続けている。 教室の後ろで大きな音が聞こえる。 ちらと見ると、天井が落ちていた。 叫び声が増える。 まだ揺れている。天井を見ると、一ヶ所がまた落ちそうになっていた。その下には...深浦さん! 頼む、落ちないでくれ...! そんな願いも自然の前では叶うわけもなく、ついに天井の板を留めているのはネジ一つだけになった。 そのネジも...外れた。 と思ったときには無理矢理立ちあがり、 「っ深浦さん!」 とだけ言って、深浦さんを思いっきり手で押した。 その瞬間、何かが背中に強くあたり、目の前が真っ暗になった。 もうほとんど考えることが出来ない頭で、『反人間』という言葉をまた思い出した。俺は、呪いにかけられたのかもしれない。 もし...本当なら...みんなは...深浦さんは...助かる。 なんでだろうか。口角が、少し、上がるのを、感じる。
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