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人生は選択の連続だ?-2
唖然としている信吾を見かねたのか、
「ちょっと、ちゃんと聞いてますか。井浦信吾君?」
と女は信吾に声をかけた。
「いや……、あの……」
その答えに悩んでいる信吾に
「あーわかった!」
と女は大声を出した。
「もしかして、私がうそついてると思ってるんでしょ!」
女、天界から来た天使エリーは原因がわかり嬉しいのかひとりで納得した顔をしている。
いや、うそとかそういう話ではなくて……
「ひどいわ、さっきも私のことずっと無視してたし」
「いや、あの……」
「でも、きみ、この話に乗らないと、本当にあと4日後に死んじゃうんだからね」
いや、それが……。
それが一番気になる。
信吾は思った。
あと4日後に死ぬ?
なぜ、どうして、どこで、なにが、なんのせいで?
「あ、もしかして、混乱させちゃった?」
女の言葉に信吾は無言でうなずいた。少し口が開いた、ばかげた顔をして。
「しょうがないなー」
天使エリーはそういうと、ぴょんとジャンプし、空に浮いてみせた。
「もう一回、ゆっくり説明してあげるね」
空に浮いたまま、天使エリーはそういった。背中に羽が生えているのが見えた。
「まず、きみは井浦信吾君。それは間違いない?」
「はい……」
信吾はそう弱々しい声でそう答えた。
「よし、井浦信吾君、きみはあと4日後に死にます」
「はあ……」
「死因とかは、教えてあげられないんだ、ごめんね。でも、唯一それを回避する方法があります。それがこれ!」
再び、信吾の前にスクリーンの映像のようなものが映し出される。
そこに書かれている文字は。
「『人生は選択の連続だ』!」
女が、高らかにその言葉を叫ぶ。
「このゲームに参加すれば、きみは4日後に死ぬ、その運命を変えることが出来るかもしれません」
「……」
言葉が出ない。
「ゲームの内容を説明するね」
そういうと、信吾の前に新たなスクリーンと言葉が出てくる。
「このゲームは、人生の選択をするゲームです。これから4日間、あなたには人生に関するさまざまな選択をしていただきます。そしてその選択が見事正しければ、みごとあなたはこの死の運命からのがれることが出来ます」
まるでゲームか映画のオープニングのように、文字がそのスクリーンを下から上へと流れていく。天使エリーは、それをただ、読み上げただけだった。
「何か、質問はありますか」
「いや、質問……」
「ありませんか?」
「いや、その……」
「何が不満なの?」
「いや、不満とかいうんじゃなくて!」
信吾は思わず大声で叫んだ。その瞬間に通りを歩いていた人の目がすべて信吾に集中するのがわかった。その視線はとても恐ろしく、一瞬信吾は震えあがった。
「ああ、私の声はきみにしか聞こえてないから。そうやって大声で叫ぶと、変な人だと思われちゃうよ」
お前に言われたくない……。
信吾はそう思った。
「さ、仕切り直して!」
再びスクリーンが現れる。
『このゲームに参加しますか』
『はい』『いいえ』
スクリーンには、そう映し出されていた。
「これが、最初のきみの選択だよ」
「だから、待ってくれって」
信吾はまた少し大きな声を出した。道行く人の視線が痛い。
「よくわかんないんだよ、よく」
「ただひとつ言えることは」
天使エリーが微笑んだ。
「きみは、このゲームに参加しないと、あと4日後に死んじゃうっていうことだけかな」
信吾はごくりと唾を飲んだ。
「どうして、俺が死ななきゃならないんだよ」
「そういう運命だから」
「そういう運命って!」
「全部、選んで来たんだよ」
エリーの目がまっすぐに信吾をとらえる。
「全部、井浦信吾君、きみ自身が選んできた運命だよ」
その言葉に、息が詰まるのを感じた。言葉が出ない。
「私はいいのよ、別に参加しなくてきみがこのままあと4日後に死んじゃうだけだから」
「……」
「どうする?このゲームに参加して、運命を変えてみる?それとも、参加せずにそのまま死ぬ?」
「い、意味がわかんねえよ」
信吾はゆっくりと言葉を発していく。
「意味が分かんねえよ」
「わかんないなら、それでもいいよ」
目の前のスクリーンは、消えない。
「わかってても、わからなくても、きみが選ぶの。それがきみの人生だから」
「でも……」
「大丈夫。誰かを殺したりとか、危害を加えたりとか、そんなことは一切ないから。ただ、きみがきみの人生を選ぶゲーム。ただそれだけ」
エリーが微笑んだ。
「いいえを選んだら……」
「きみはそのままあと4日後に死ぬ。死因は教えてあげられない、ごめんね」
エリーはそう言って、片目を閉じた。ウインクのつもりだろうか。
「はいを選んだら……」
「その運命が変わるかもしれない。でも、変わらないかもしれない。それは、すべてはきみの選択が決めることだよ」
「死ななくて、すむかもしれない、ってこと」
「うん。でも、このまま死ぬかも知れない」
「すべては……」
「きみの選択が、決めることだよ」
おれは、4日後に死ぬ。どうして?でも死因は教えてくれない。このゲームに参加すれば、その運命が変わるかもしれない。でも、これ自体が、いんちきとか、でたらめとか……。
「でたらめじゃないよ」
信吾の考えをよんだのか、エリーが間髪入れずに答えた。
「こんなでたらめ、空に浮きながら言う人がいると思う?」
思わない。
だからこれは、
「夢であるしかない。けど残念。夢じゃないんだな」
また、考えを見通される。
「さあ、どっちにする?」
どっちにする?
「きみの答えは、ひとつしかないと思うけどな」
このまま死ぬか、運命を変えてみるか。
よくわかんない、よくわかんないけど……
このまま死ぬのは、嫌だ。
信吾の手がゆっくりと伸びていく。
そして
『はい』
そう選択した。
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