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審判の日
「あああああああああああああ!」
そう叫びながら、信吾は目を覚ました。
汗をびっしょりとかいていて、とくかく気持ちが悪かった。
はあはあと、息が荒いのがわかる。信吾はゆっくりと、それを落ちつけようとする。
それを同時に、今度は自分の手を見つめた。ぐっぱぐっぱと動かしてみる。確かに、自分の思い通りに動く。
目の前には、いつも通りの自分の部屋がある。
「おはよう、井浦信吾君」
いつものようにエリーが声をかけてくる。
「よく眠れた?」
「ああ……」
思わずエリーを見つめてしまう。
「なによ、そんなに見つめないで」
エリーが体をくねらせる。
「いや、そうじゃなくて!」
信吾が大きな声を出す。
「あの、判決は……」
「あれ、きいてなかったの?判決は、人生の続行。きみは、正しい選択をしたよ、井浦信吾君」
エリーがそう言った。その言葉に、信吾は驚き、目を見開いた。
「えっ……」
「だから、人生の続行。きみは死にません」
「や、やったーーーーー!!!!!!」
その言葉に、思わず腕を上げ、信吾は喜んだ。そのままベッドを出て、エリーの手を取り、くるくると回りだした。
「やったー、やった、やった!!」
「お兄ちゃん、うるさい!!」
隣から美咲の声が聞こえてくる。
「信吾君、朝の5時からちょっとうるさいかな」
エリーからもそう指摘を受ける。
「あ、ごめん……」
信吾はわけもわからず、とりあえずあやまった。
たしかに、窓を見ると、まだ暗い。ほんのりと、明かりが差し込んできているようなそんな気もする。
「おめでとう、信吾君」
エリーはそう言って、信吾にぎゅっと抱きついた。
「よくやったぞ」
そういいながら、信吾の頭をなでた。
エリーの胸のふくらみが、自分の体にあたるのを感じ、思わず信吾の全身が熱くなった。
「いやだ、えっち」
エリーがそう言って、信吾から離れた。
「ご、ごめん」
また信吾は謝った。
「そうやってすぐ謝っときゃいいって、そういう問題じゃないぞ」
エリーが人差指を立てて、そう言った。
「きみの人生はまだまだ続いていくんだからね」
エリーはそう言って、はーっと息を吸った。
そして
「このゲームに参加できるのは、人生で一度きりだけです。あなたは見事このゲームをクリアすることができました。しかし、これからの人生では、あなたはいつ死ぬか、それは誰にもわかりません。もしかしたら、明日死ぬことがあるかもしれません。なので、このゲームから得たことを今後の人生に役立ててください。このゲームのことは、ほかの人に伝えても大丈夫です。どうか、このゲームを、あなたの人生に、あなたの幸せに役立ててください。おめでとうございます」
エリーはそう、信吾に一息で説明した。
「では、私はこれで」
「えっ」
信吾は驚いた。
「もう行っちゃうの?」
「うん」
信吾の問いかけにエリーは笑顔で答えた。
「また、次の参加者を見つけないといけないから」
エリーはそう言った。
「また、道端で叫ぶの?」
「そうそう!」
エリーはそういうと、信吾と会った時のように
「すみませーん」
と叫んだ。
それが懐かしく感じられ、信吾は思わず吹きだした。
「あれ、不審者だから、やめたほうがいいよ」
「あら、でもあそこまでしないと、誰も見つけてくれないでしょう?」
エリーがそう言った。
「参加者を見つけるのもなかなか大変なんだから」
「そっか……」
信吾は少しだけうつむいた。
「エリーのこととか、もっと聞いとけばよかった」
「えっ、スリーサイズとか?」
「そういうんじゃなくて!」
エリーは自分の体に腕をまわす。
「信吾君のエッチー」
「いやいや……」
いつものやりとりだった。
「エリーとも、もう会えないんだよね」
「うん」
そういって、エリーが微笑んだ。
そしてエリーは信吾に右手を差し出した。
「もともと、会うこともなかったんだよ、井浦信吾君」
「確かに」
信吾は、その手を握り返した。
「元気でね、信吾君」
「ああ、エリーも」
そして、信吾はエリーの手を離した。
そしてエリーがゆっくりとゆっくりと真吾から遠ざかっていく。
「最後に!」
エリーが腕を上げ、またいつものハイテンションでそういった。
「タイトルコール!」
「タイトルコール?」
「そうよ、これをしなきゃ、このゲームは終われないのよ!」
エリーがそういうので、信吾も腕をあげた。
「人生は?」
「人生は、選択の連続だ!」
そう信吾が叫んだ瞬間、エリーはいなくなった。
窓から、少しずつ、朝日が差し込んでくる。
また1日が始まる。
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