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人生は選択の連続だ?-1
「すみませーん、誰か、私の声が聞こえませんかあ」
(へ、変な奴がいる)
井浦信吾はそう思いながら、駅前の通りを歩いていた。
「すみませーん」
先ほどから変な格好をした女がひとり「すみませーん」と叫び続けている。
オフホワイトの、腰の部分がしぼってあるワンピースを着ている。シンプルで、それはいいのだが。けれど頭には、青色の大きな被り物をしており、さながら、ハロウィンのような出で立ちになっている。
まだ5月なのに……。
部活終わりで疲れ果て、とっとと家に帰りたいと思っている信吾の通り道をふさぐように、女は、周囲を見渡しながら、
「すいませーん」
と叫び続けていた。
他の人たちは、さすが、変人にもなれているのか、ガン無視を決めこんでいるようだった。まるで、そんな女など最初から存在していないかのように、するすると脇を通り過ぎていく。
(す、すごい……)
そんな能力に感心しながらも、信吾はどうしようかと迷っていた。
女の脇を通らなければ、家に帰ることができない。
このまままっすぐ、女の方へ歩いて行って上手くよけるか、それとも道を変えて遠回りをするか。
「私の声が聞こえませんかあ」
信吾がそんなことを考えている最中も、女は周囲に向かって叫び続けている。
時折、気づいたような感じの人が、懸命にその女を視界に入れないように過ぎ去っていくのも見える。
上手くいけば、俺にもできるかもしれない。
そう思った信吾は、まっすぐに女の方へと歩いて行った。
ちらりと女の方を確認する。
背はすらりと高く、全体的に細身で、脚も長い。けれど、出ているところはしっかりと出ている。正直言って、かなりいい体形をしている。
高校生の信吾には少し、いや、かなり強烈な印象を与えた。
信吾は見ないように、視界に入れないようにしながらも、やはりその女の体に、つい目をやってしまっていた。
ちらちら、ちらちらと。
「すみませーん!」
ちょうど信吾が脇を通り過ぎようとした瞬間、女が、突然大声を出してそう叫んだ。
「わっ!」
それに驚いた信吾は、思わず声を出してしまった。
そして、気づかれてしまった。
女が、信吾のことを見つめ、嬉しそうに近寄ってくる。
やめろ、やめてくれ。
心の中でそう叫ぶが、時すでに遅し。
女はゆっくりと信吾の前に立ち塞がった。
「こんにちは」
返事をするべきなのか、信吾は悩んだ。そして、無視をした。
無視をして、家への道を歩き出した。少し、早足で。
「あ、ちょっと待って」
そう言って女が追いかけてくる。こわい、怖い!
信吾は歩く速度を上げていく。徐々にペースは走っている、その速度とほぼ変わらないものとなった。
けれども、
「逃げないでよー」
女は再び信吾の前に立ち塞がった。
はあはあと息を切らしながらも、信吾はその女と目があった。
女は疲れた様子をまったく見せていない。
「逃げないでよ、井浦信吾君」
一瞬驚きで、体が固まるのがわかった。なぜ、この女は自分の名前を知っているのか。
「ちょっと、無視しないでよ、井浦信吾君」
「どうして、俺の名前を……」
見知らぬ怪しい女に自分の名前を呼ばれたことに、信吾は驚き、そしてついうっかり、返事をしまった。
「だって、あなたのことを待っていたんだから」
女はそういうと、かわいらしい笑顔を作って微笑んだ。
その笑顔はまるで、天使のよう……。
「俺のことを?」
その笑顔につられ、信吾はまたもや、返事をしてしまった。
「そう」
そうして女は、信吾に一歩近づいてきた。
「私はエリー。天界からきた天使」
「……はい?」
「そして、井浦信吾君、驚かないで聞いてね」
「はあ……」
「あなたは、あと4日後に死にます」
「……」
「でも、このゲームをやれば助かるかもしれませーん、その名も!」
じゃじゃーんという音が聞こえてきそうな動作で、女は、信吾の目の前にスクリーンを映し出した。
「この、『人生は選択の連続だ』をやればね」
そういって、女はウインクをした。
いや、意味がわからない……。
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