手に入らない

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「ワオン!キャンキャン!」 どこからか、そんな鳴き声が聞こえてきた。 誰も気にも留める様子なく歩いていく中、私だけが立ち止まり皆が一方通行で歩いているという規律を乱した。 「犬の、鳴き声...?」 そう、私はもっぱらの犬好きなのだ。 犬のことには人一倍敏感で、気づかぬうちに声のしたほうへ歩き出していた。 歩いていくと、そこには一匹の可愛らしいチワワがいた。 キャンキャンと吠えるその子の瞳を見ているうちに、これは運命だと思った。 その日私は出会ったばかりなのにも関わらずに、こんなに運命的な何かを感じることはあるだろうか。 そんな気持ちで抱き上げると、首あたりにキラリと光る何かを見つけた。 「ん...?」 その瞬間、息を切らした人に声をかけられた。 「はぁ、はぁ、ありがとうございます!」 「は、はい?」 何のことかと聞き返すと、 「その子、うちの子なんです!逃げ出してしまったのを、捕まえてくれて本当にありがとうございます!」 まだ状況を理解できない頭をフル回転させる。 この子は、捨て犬じゃなくて飼い犬で、この人が飼い主さん? 運命じゃ、ない? 「それでは!」 そう言って爽快に去って行ったあの子の首には確かに、 綺麗な首輪がついていた。
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