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どれくらいそうしていただろうか。ふと気が付けば、いつの間にか空が白んでいた。――朝焼けだ。
連なる山々の向こうから差し込む光の眩しさに、思わず目を細める。
「……美咲」
会いたい。君に、今すぐ会いたい。
瞬間――俺は確かにそう願った。それと同時に、耳に届く声。
「……和樹?」
それは聞き間違いかと思える程に小さな、けれど決して聞き間違える筈のない声。はっとして振り向けば、そこには美咲が立っていた。俺の大切な、愛しい愛しい彼女が、橋の向こうに。
「良かった、いた!」
そう叫んでこちらに駆け寄ってくる君の姿に――俺は夢中で、地面を蹴る。
「美咲!」
君の名を呼びその腕を掴んで、そのままぐいと引き寄せる。君の瞳が、大きく見開かれた。
「和……樹?」
あぁ、美咲だ。本当に美咲だ。
彼女の背中に回した腕に力を込め、うなじに顔を埋めて、懐かしいその声をこの耳に焼き付ける。
「もしかして、泣いてる?」
「……泣いてねぇし」
必死の強がりで返した声は自分でもびっくりするぐらい掠れていて、死ぬほどかっこわるかった。
「和樹って暗いの駄目だったっけ、本当に大丈夫? ごめん気付かなくて、私寝ちゃってて」
「――いい」
あぁ、何やってんだよ俺。謝りたいのに、謝らなきゃいけないのに。もうどうしようもなくて、これ以上一言でもしゃべったら、本当に泣いてしまいそうで。
「でも、和樹も悪いよ。来るなら来るって前もって言ってくれないと。由香から連絡来ててびっくりした」
「――うん」
「ねぇちょっと、ちゃんと聞いてる? 何かあった?」
美咲の心配そうな声。
けれど本当に言葉が出てこなくて……ただ、彼女を抱き締めることしか出来なくて。辛いのは自分の方だろうに、俺の心配なんてしている彼女が健気すぎて――何とか、言葉を絞り出す。
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