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美咲は美人だ。月に一度は告られている。この前もゼミの先輩に告白され、いつものごとく断ったらしいと風の噂で聞いた。それくらいの美人だ。とは言え高嶺の花というほどではなく、色気があるかと聞かれればそうでもない。おしとやかでもない上に、生意気で可愛げもない。
なのにどうして俺がこんなことを口走ったのかと聞かれれば、単純に気になっていたからだ。
どうして美咲は、誰とも付き合わないのだろうかと。
「なんで皆断るの? 好きな奴でもいる?」
再び暗い夜空に視線を向けながら「俺ならとりあえず付き合うね」と続ければ、彼女は呆れたように笑った。
「ま、和樹はそうだよね」
「いいじゃん、据え膳食わねば男が廃るって言うし」
「……ていうか和樹、彼女いなかったっけ。ほら、確か教育学部の結構可愛い子」
「あーあれ、振られたわ。思ってたのと違ったって。ウケるよな」
「和樹のいいところ、顔だけだもんね……」
ぼそりと呟かれた美咲の言葉に、俺はすかさず切り返す。
「それ盛大なブーメランじゃね?」
「一緒にしないで。それに私は男にだらしなくないし」
「はぁ? 別に俺だってだらしなくねぇよ! 浮気とか絶対しないタイプだし」
「そんなの当たり前でしょ。何えらそーに言ってんの」
軽口を叩きあって、――少しの沈黙。
この間で、人の相性って大体わかると思う。お世辞抜きで、美咲との沈黙の心地よさといったらない。
そして多分それを、美咲も気付いている。
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