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それから数時間後、俺は2年前のことを思い出しながら、どこだかわからない橋の上で途方にくれていた。過去に一度だけ遊びに行った記憶を頼りに、新幹線とタクシーで美咲の実家の近くと思われる辺りまで来たのはいいものの、結局迷ってしまったのだ。しかもスマホの電源も切れている。
街はひっそりと静まり返っていた。コンビニ一つ見当たらず、灯りも殆んどない。
「――くそ」
何やってんだ、俺。
人気のない真っ暗な橋の真ん中で、力無く一人うずくまる。
今は何時頃だろうか。長野駅に着いた頃には既に日付は変わっていた筈だけど……。
スマホを握り締める手が、震えていた。それはこの冷えた空気のせいか、それとも焦りのせいなのか。
多分、両方だ。スマホが切れるまで美咲に何度も何度も電話をかけたが、結局一度も繋がらなかったのだから。
「……何、やってんだよ」
思わず口から漏れ出た声は、果たして自分に対してか、美咲に向けての言葉なのか、自分でもよくわからなかった。
――俺、何か間違えたのかな。
この2年間、美咲とは上手くやってきたつもりだった。小さい喧嘩はしたが、泣かせるようなことは一度だってしなかった。確かに最近はお互い頻繁に連絡を取るようなことは無かったけれど、そういうものかと思っていた。
でも、本当は我慢させていたのだろうか。俺は美咲に気を使わせてしまっていたのだろうか。卒業するまでは確かに、言いたいことを言い合える仲だった筈なのに。
「……美咲」
自分でも気付かなかった。あんないい加減な告白で付き合いだした相手が、こんなに大切な存在になっていたなんて。離れていても絶対大丈夫だと、そう思えるくらい絶対の存在になっていたなんて。
俺はただ、後悔し続けた。橋の下の流れる水音だけが空気を震わせる闇の中で。もう、どこに向かえばいいのかもわからずに。
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