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第1章 食いしん坊の幽霊 ①
気がつくと、自分の目の前には、顔に白い布を掛けられた男が横たわっていた。
その横で、兄が物悲しそうにそれを眺めている。五十も過ぎて涙こそ流しはしないが、自分より先に逝った弟を深く哀れんでいるように見えた。
隣の部屋で葬儀屋と話しているのは、兄の息子の夏也だろうか。しばらく見ない内に大きくなった。若い頃の兄に似て、優しそうな青年に育ったようだ。
『叔父さん一人暮らしだったんでしょ? もう少し早く気付いてあげられたらよかったね……』
『死因は心不全という事みたいだけど、どこか悪いなんて話も聞いてなかったしねぇ……』
廊下で立ち話しているのは、義姉と娘の晴香だろう。
私がさらに視線を巡らせると、階段の下に座っている着流し姿の男と目が合った。
『いや参った。どうも死んじまったらしいね、友和』
神様はそう言って、いつものようにニヤニヤと笑った。
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