第4章 河童の里と黒い怪物 ③

2/11
944人が本棚に入れています
本棚に追加
/287ページ
 彼女はにこやかな笑みを浮かべてついてくる。この感じでは、多分何を言っても帰ってくれないだろう。 (もう逃げる言い訳を考える方が面倒臭いな……) 『……別に構わないが』  俺はこのまま彼女と一緒に家まで帰る事にした。確かにここから家までは遠くないし、一ノ瀬と違って何か裏がありそうな人物にも見えない。家に入る所まで見れば、安心して帰ってくれるだろう。 『良かったわ。あ、君、名前は?』  俺は一瞬で後悔した。 『……個人情報なので答えられない』 『そう、しっかりしてるのね……でも、今のご時世それくらいが丁度良いのかもね』  彼女は屈託無く笑った。俺は溜息を吐く。 『……友和』 『え?』 『……一度しか言わない』  俺は彼女と目を合わせず、早足で歩いた。なんで本名を言ってしまったのか、自分でも良く分からなかった。 『友和君はどこの中学校に通っているの?』 『教えない』 『兄弟はいるの?』 『ノーコメント』  彼女の質問を躱しながら坂を登り、自宅の門の前に立つと、俺は振り返った。 『じゃ、俺の家はここだから』  これでようやく解放されると思ったが、予想に反して彼女は表札を見ながら驚いた顔で立ちつくしていた。 『え……ここって、もしかして護堂先生のお家……?』
/287ページ

最初のコメントを投稿しよう!