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彼女はにこやかな笑みを浮かべてついてくる。この感じでは、多分何を言っても帰ってくれないだろう。
(もう逃げる言い訳を考える方が面倒臭いな……)
『……別に構わないが』
俺はこのまま彼女と一緒に家まで帰る事にした。確かにここから家までは遠くないし、一ノ瀬と違って何か裏がありそうな人物にも見えない。家に入る所まで見れば、安心して帰ってくれるだろう。
『良かったわ。あ、君、名前は?』
俺は一瞬で後悔した。
『……個人情報なので答えられない』
『そう、しっかりしてるのね……でも、今のご時世それくらいが丁度良いのかもね』
彼女は屈託無く笑った。俺は溜息を吐く。
『……友和』
『え?』
『……一度しか言わない』
俺は彼女と目を合わせず、早足で歩いた。なんで本名を言ってしまったのか、自分でも良く分からなかった。
『友和君はどこの中学校に通っているの?』
『教えない』
『兄弟はいるの?』
『ノーコメント』
彼女の質問を躱しながら坂を登り、自宅の門の前に立つと、俺は振り返った。
『じゃ、俺の家はここだから』
これでようやく解放されると思ったが、予想に反して彼女は表札を見ながら驚いた顔で立ちつくしていた。
『え……ここって、もしかして護堂先生のお家……?』
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