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これでは何度攻撃してもキリがない。ポケットの中に鈴は入っているが蓮雫はまだ怪我が治ったばかりだ。
(とにかく彼女を連れて、この場から離れなければ……でも一体どこへ……)
『友和君、これが何だか分かるの……?』
『捕まれば魂を抜かれる。俺が守りきれない場合は、頑張って自力で逃げてくれ』
『た、魂?』
会話している間にも、黒い手は再生していく。家の中に入ったところで、夏也やシュンを巻き込むだけで何も解決しない。
(この近くで身を守れそうな場所……)
『弁財天へ向かえ!』
その時、坂下の方から男の叫ぶ声がした。振り向くと、宵闇の中に背の高い男が立っている。
『一ノ瀬!?』
『だから、首を突っ込むなと言ったのだ。早く彼女を連れて神社へ向かえ!』
今回は断じて俺から首を突っ込んだ訳ではないが、俺は神岡の腕を掴むと坂下へ向かって走り出した。
『え、ど、どこ行くの? あの人は知り合い?』
『神社まで無事に逃げられたら説明する!』
一ノ瀬は何やらぶつぶつと独り言を言いながら、手刀で印を切るような仕草をした。そしてその指先を黒い手に向かって斬りつける。
『闇に還れ!』
何か一瞬、指から光が迸ったように見えた。彼を追い越しながら、黒い手を振り返ると、波動を受けた部分が霧散している。
『後でわしらも行くから安心せい』
『!?』
知った声がして、道の先に視線を戻すとうちの神様が居た。
『神様!? アンタ何で一ノ瀬と一緒に居るんだ!?』
『神社まで無事に逃げられたら説明しよう』
『……ぐっ』
俺は苛立つ気持ちを堪えながら、ニヤニヤしている神様を追い越して走り続けた。
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