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霧が凝集しきる前に、俺達はその横をすり抜けて鳥居を潜った。しばらく石段を登った所で振り返ったが、どうやら黒い手は鳥居を潜れないらしく、その場で立ち往生していた。
(奴は神社の敷地内に入れないのか……?)
『友和君の手、冷たいのね……。あんなに走り回ったのに……』
そう言われてはっとした俺は、掴んでいた神岡の腕を離した。彼女を連れて行こうと集中していたので、ずっと触れていられたようだ。
これまで生きた人間から感想を貰った事など無かったが、霊に触れられた側は冷たいと感じるらしい。
『……もう、死んでるからな』
『え、死んでる……?』
こんな状況では誤魔化しようも無い。俺は石段を登りながら、彼女に自分の事や黒い霧について説明した。
先程会ってしまった、一ノ瀬や神様についても、かいつまんで話す。
普通なら信じられる話では無いが、状況が状況だけに、彼女も大きな目を見開いて頷いていた。
『じゃあ友和さんは、護堂先生の亡くなった叔父様って事ですか……?』
『……そうだが、別に敬語にならなくても良いし、その呼び方は何か嫌だな』
『いいえ! 知らなかったとはいえ失礼しました……』
彼女はペコリと頭を下げる。
『それと……夏也は今話した事について何も知らないんだ。俺が幽霊としてまだ霊界と人間界を行き来している事も……。だから今日の出来事を学校で話したりはしないで欲しい。まあ、話したところで信じられないだろうしな……』
『……そう、ですね……』
石段を登りきると、拝殿に灯りが灯っているのが見えた。拝殿の扉は開いており、サザナミと豊月がその前に立って手招きしている。
『あれは?』
『……えーと、神様達……だな』
『またですか!? 叔父様、顔が広いんですね!』
俺はまた説明しなければならない事が増えて、若干うんざりしながら拝殿へ向かった。
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