第4章 河童の里と黒い怪物 ③

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 霧が凝集しきる前に、俺達はその横をすり抜けて鳥居を潜った。しばらく石段を登った所で振り返ったが、どうやら黒い手は鳥居を潜れないらしく、その場で立ち往生していた。 (奴は神社の敷地内に入れないのか……?) 『友和君の手、冷たいのね……。あんなに走り回ったのに……』  そう言われてはっとした俺は、掴んでいた神岡の腕を離した。彼女を連れて行こうと集中していたので、ずっと触れていられたようだ。  これまで生きた人間から感想を貰った事など無かったが、霊に触れられた側は冷たいと感じるらしい。 『……もう、死んでるからな』 『え、死んでる……?』  こんな状況では誤魔化しようも無い。俺は石段を登りながら、彼女に自分の事や黒い霧について説明した。  先程会ってしまった、一ノ瀬や神様についても、かいつまんで話す。  普通なら信じられる話では無いが、状況が状況だけに、彼女も大きな目を見開いて頷いていた。 『じゃあ友和さんは、護堂先生の亡くなった叔父様って事ですか……?』 『……そうだが、別に敬語にならなくても良いし、その呼び方は何か嫌だな』 『いいえ! 知らなかったとはいえ失礼しました……』  彼女はペコリと頭を下げる。 『それと……夏也は今話した事について何も知らないんだ。俺が幽霊としてまだ霊界と人間界を行き来している事も……。だから今日の出来事を学校で話したりはしないで欲しい。まあ、話したところで信じられないだろうしな……』 『……そう、ですね……』  石段を登りきると、拝殿に灯りが灯っているのが見えた。拝殿の扉は開いており、サザナミと豊月がその前に立って手招きしている。 『あれは?』 『……えーと、神様達……だな』 『またですか!? 叔父様、顔が広いんですね!』  俺はまた説明しなければならない事が増えて、若干うんざりしながら拝殿へ向かった。
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