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『これで役者が揃ったな。じゃあまず、アンタは一体何者なのか説明して貰おうか』
一ノ瀬は不服そうな顔をしていたが、立ったまま話し出した。
『俺は一ノ瀬葉月。最初に会った時も言ったが警察をしている……正真正銘の人間だ。だが縁あって、人間界に潜伏する悪鬼妖怪、その他霊障を調べて神界へ報告する任務を授かっている』
『神様が人間を雇うのか? それこそ神自身で何とか出来そうだが……』
俺が口を挟むと、神様が俺の横に座りながら説明した。
『神が事ある毎に、直接人間に干渉しまくる訳にはいかんからのう。人間に化けた者や、その周辺なんかの人間に直接働き掛けたり、交渉が必要な場合に重宝するんじゃろう。諜報員だけに』
神様の冗談に誰一人和まなかったが、一ノ瀬はそんな空気も気にせず冷淡に続けた。
『黒い霧の調査は引き続きこちらで行う。お前達の手助けは必要無い』
『月神が奴を再度封印してみせるという事か?』
俺はまた切り込んだが、一ノ瀬の表情は変わらない。
『雇い主について話す事は出来ない。説明は以上だ。そこの女性は警察として、俺が家まで送って行こう』
一ノ瀬は美帆の手を取り、拝殿から出ようと背を向けた。彼女は戸惑いながらも、一ノ瀬に引っ張り上げられる形で立ち上がる。
『待て! これまで何の動きも無かったお前達に、本当に奴をどうにか出来るのか? 被害は今も拡大しているんだ。協力して早く解決すべきだろう?』
一ノ瀬は冷たい瞳をさらに鋭くしてこちらを振り返った。
『我々は水面下で活動しているのだ。貴様らごときに感知される訳がなかろう。協力者なら既に見つかった。思い上がるな』
『あっ……叔父様! す、すいません。ありがとうございました!』
そう言って彼は、美帆の手を引っ張るようにして部屋を出て行った。彼女も引き摺られるように拝殿を出て行く。
『……くそっ』
俺はそれまで握っていた拳を床に叩きつけた。
『あーまで言われちゃ、仕方ないわねー。怖そうだけど、霊力も高いしめちゃめちゃイイ男だったわね♡』
豊月は唇に指を当てて呑気に言った。サザナミと神様は、彼等を追う事もなく沈黙している。
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