第1章 食いしん坊の幽霊 ①

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 袋の中身は何の事はない、商店街で買った鶏のから揚げ弁当がひとつ入っているだけだ。 『アンタ、もしかして腹が減っているのか?』  関わりたくは無かったが、彼のあまりに必死な様子に、俺はつい声を掛けてしまっていた。 『その唐揚げ弁当、なんとも旨そうじゃのう……』  男は袋を凝視したまま言った。 『え、なんで中身が分かるんだ……?』  袋は無地の茶色い紙袋で、中は見えない。この弁当を買った肉屋には、他にも生姜焼き弁当など数種類の弁当があり、匂いも多少はするだろうが正確に当てられるものだろうか。 (犬でも難しいんじゃないか……? 毛量は多いが、コイツはさすがに人間だろう)  俺はふわふわのポメラニアンを想像したが、そんなに可愛らしいものでは全くなかった。  もふもふした犬は好きだが、もふもふした怪しい成人男性は嫌いだ。
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