青空

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青空

「優斗!!急いで!」 「わかってる」 朝から母さんの声が2階に響く。 鏡に写る俺の姿は今日で最後のこの制服姿に身を包んでいる。 今日は卒業式。 義務教育である中学が終わり、1か月後には高校生としての生活が始まる。 「優斗はやく!!!」 「今行く。」 相変わらず朝からの声に、心の中で苦笑を漏らす。 いつの間にか死んでしまった俺の表情筋は、肉親にも動かない頑固さを見せる。 時計を確認するとまだまだ時間は有り余ってる。 心配性の母の声を聞きながら、整理された机の上にある鞄を見る。 今日が最後の鞄を。 鞄の校章に眉を寄せ、鞄を取って1階に降りていく。 「優斗!チョーカーしてないじゃない!」 「いらないだろ」 「いいからしなさい!」 「ハイハイ。」 母に渡された黒いそれを見て眉が更による。 自分の大っ嫌いな部分を守るそれに、感謝したことなど1度もない。 むしろ見る度に捨ててやろうかと思う。 チョーカー、と言うには少し太いそれをうなじの部分にかかるように着ける。 番いんのに。 決して言ってはいけないその言葉を、素直に飲み込む。 母を悲しませる気は無い。 付けたそれをするりと撫でて、扉に手をかける。 「行ってきます」 母は既に出ており、家には誰もいない。 靴棚に並ぶ花と写真立て。 その中に写るのは、母と自分と姉の姿。
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