<第二十六話・標>

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「う、げえええええええええ!」  気づいた瞬間、もう耐えることが出来なかった。一気に胃袋から溢れたものが口内を満たし、美園はその場に嘔吐してしまう。  それは、死体だった。もはや男か女かもわからぬ死体に、真っ白な蛆が大量に湧いて集っているのである。理解してしまった事実と凄まじい悪臭は、美園に十分過ぎるほど精神的ダメージを与えることになる。  胃液と昨夜の未消化物を吐き出しながら、理解した。此処は、そういう場所なのだということを。  自分は“みかげさま”のように磔にされて燃やされこそしなかったものの、この場所に落とされて――死ぬまで閉じ込められる刑を受けたのだ、ということを。 ――このまま此処に居たら死ぬ……死んじゃう………私も、この人たちと同じように……!  そうなる前に、此処から脱出しなければいけない。同時に、この洞窟の何処かに囚えられているであろう琴子を捜して救出しなければ。幸い美園は拘束されてはいないし、まだ動ける体力もある。嘔吐したせいで少々服は汚れたしきっと自分自身が凄い臭いになっているだろうけど、今はそれに構っている暇もない。なんとか心が折れていないうちに、琴子を捜して脱出しなければ。 ――諦めちゃだめ。動かなきゃ。どっち?どっちに、行けば……?  この開けば場所は、丁度美園の前後に二つ通路が伸びているらしい。だが、己がどちらの道から来たのかなどわからない。方向感覚などこんな洞窟で働く筈もない。  どちらに行くのが正しいのか。そう思った、その時だ。  じゃり。 「!!」  美園の背後から、砂を踏むような足音が聞こえてきたのは。 
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