<第二十七話・救>

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「ひい!!」  一気に少女は――美園の目の前に、いた。  まるで空間を吹き飛ばして、瞬間移動でもしてきたかのような不自然さで。 「い、いい……ひいい……!」  後ずさり、どうにか少女から距離を取ろうとする美園。目の前のこの子はきっと、あの“みかげさま”だ。自分にずっと呼びかけてきた少女であるはずだ、と頭の冷静な部分は言っていた。だが、だからといってそれを目の前にして、どうして恐怖を感じずにいられるだろうか。  彼女は、救済を求めているのかもしれない。  でも大前提として、自分と琴子を呼び寄せ、生贄になるように仕向けた張本人は彼女であるはずである。彼女の求める救済が、“美園と琴子を生贄にすることで達成される”可能性もまだ十分にあることだ。そもそも彼女が全く邪悪な意思に飲み込まれ、取り憑かれていないというのなら。きっとこんな恐ろしい儀式が、繰り返されることなどなかったはずなのだから。 「!」  目を見開く美園の前で、少女の体が足先から音を立てて燃え上がった。  肉が焦げる臭いがする。愛らしい白い顔の少女の腕が、足袋と草履の足が、着物が、真っ赤な焔に包まれて燃え上がり無残に焼け爛れていくのが見える。皮がぱりぱりと縮こまり、引き攣れ、どろりと溶けるように焼け落ちて真っ赤な肉を晒し、やがて焦げていく。凄惨――あまりにも、残酷。美園は震えながら、再びこみ上げてきた吐き気を堪えるように口元を抑えて耐えていた。耐えていたのはただの気持ち悪さ、ではなかったけれど。 ――酷い。酷いよ、こんなの。  美園は、理解した。  みかげさまになるということは。それも、初代の柱として、次の柱を永遠と呼び込む立場になるということは、つまりこういうことであったのだと。  神隠しに憧れを抱き、神様の国に行けることは愛されることに違いない――そんな甘い幻想を抱いていた少し前の自分を、殴り殺したい気持ちになった。確かに、この少女は何かに選ばれたのかもしれない。彼女を選んだ、人以外の力も何処かに働いていたのかもしれない。  だが、これほどまでに苦しく、痛い思いをして死んだ筈だというのに。村の者達のための生贄になったはずなのに。結局彼女は、何一つ報われてなどいないのではないか。
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