<第二十七話・救>

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「ずっと。苦しかったんだよね。……痛くて、痛くて、でもその苦しみを……誰にも分かってもらえなかったんだよね……?」  特異な霊能力を持つ者が傍にいたら、多くの人の反応はまず否定から入る。そんなもの嘘っぱちに違いないと蔑み、拒絶する。それはそんなものが持てる相手への嫉妬か、そんなものが存在したら恐ろしいから見て見ぬふりをしたいという恐怖ゆえ。  ゆえに、その力が本物だとわかれば、感情は次の段階にシフトするのだ。待っているのは多くが畏怖ゆえの差別。その能力を信じて貰え、尊敬されたり認められたりすることはきっとさほど多いものではない。実際この少女が、望まぬ幽閉の挙句生贄を押し付けられることになったように。 「……貴女は、とても頑張った。頑張ったのよ」  ずっと動かなかった美園の足が、やっと――力を取り戻していた。泥と、ちょっと漏らしてしまったものやらなんやらで汚れて、だいぶ酷いことにはなっていたけれど。 「本当の地獄は地面の下でも異世界でもない、最初から地上にあった。貴女は本当はそれをわかっていたけど……自分で自分を、止められなかったんだよね。あんまりにも苦しくて、それしか縋るものがなかったから」  美園は。逃げるのではなく、自分から――少女の方へと、歩き出していった。  幼くしてこの村を救い、命をもって人々の心に安寧を齎し、人間の“呪い”を身守り続けた少女を。  祭御影(まつりみかげ)を。 「もう、いいよ。……もう、貴女一人で、苦しまなくていいよ。悪い夢はもう、終わりにしなきゃ。貴女が誰より、それを望んでいるように」  熱風が美園の長い髪を揺らし、ちりちりと頬を焦がした。それでも美園は、少女の方へと手を伸ばす。焼け爛れ、殆ど焦げた骨だけになりつつある少女に向かって。 「終わらせよう。全ての悲しいことを、此処で。……貴女が守ってくれた世界を、今度はちゃんと私達の力で守っていくから」  勢い良く地面を蹴って美園は、今まで一度も抱きしめられたことのない少女の体を抱き寄せていた。  “みかげさま”の声がする。幼い少女は、美園にだけ聞こえる声で訴えている。  美園は満足げに目を閉じて、全身を包む熱さに身をゆだねた。
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