<第四話・車>

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「サービスエリアこまめに寄ってね、あたしトイレ近いし」  車が動き出してからずっと、助手席で携帯電話を弄ってばかりの琴子である。全くナビゲートする気はないらしい。まあ、方向音痴の彼女に斜め上すぎるナビをされても正直困るのだが。なんといっても彼女は、駅から徒歩一分の店に一時間かけて到着したというとんでもない前科がある人間である。 「盆前のこの時期だし今日土曜日だし、それなりに混んでるでしょ道。早めに出発はしたけどもさ」 「早起きするぞーって意気込んでおいて人にモーニングコールまで頼んだくせに、しっかり寝坊して遅刻したのは誰だっけ?」 「よく言うよ、そういう美園は前の晩に飲むと全然早起きできなくなるくせにー。コンスタンストに起きれないあたしの方がマシですー」  いやそんなことはないだろ、と内心ツッコむ美園である。前に大型トラックが来てしまったので、ウインカーを出して追い越し車線に移ることに決める。車であちこち遠出をすることもある美園だが、かといって運転に自信があるかと言われればそういうわけではないのだ。ただ自由に遠くまで行けるから電車より好き、というそれだけの理由である。高速道路も、出来ればあまり走りたくない質であったりする。  トラックの後ろは視界が悪くなるから苦手、というドライバーは多分少なくないだろう。同時に、一般道を走っている時、バイクに抜かれるのもあんまり好きではないという者も。抜かれてそのまま走り去ってくれればいいのだが、抜いてそのまま前をチンタラ走る奴がいるのが苦手なのだ。酷いと後ろの車に、まとめて二台抜きされることもあるくらいなのだから。 「誘ったの私だけどさ、一応琴子、言われたカメラとか道具とか持ってきたんだよね?気休めのお塩含めて」  声をかけると琴子は隣で、ばっちりですぅ!と派手に両手を上げて見せた。飲んでもいないのに随分とハイテンションだ。 「まあ、ガチの悪霊が出てきた時、食卓に乗せてるようなお塩がどこまで役に立つかは知らんけどね。つか、そういう美園はどうなのよ。トランク見たけどあのでっかいフリーザーバッグは何かなー?飲酒運転はダメって言ったけどー?」 「お、おじいちゃんとおばあちゃんもビール好きだから!ただのお土産だし!一緒に飲もうとか思ってないし思っててもちゃんとお酒抜けてから運転するつもりだし!」 「うんわかった、今日は泊まりね美園。飲酒運転イクナイ」 「なんで夜まで飲む前提なのよもう!」
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