90人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ
***
ここはもう、ストレートに言っても問題あるまい、と美園は判断した。なんせ気兼ねするような間柄でもないのだから。
「琴子ってさ、馬鹿なの?」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんですぅ!」
「小学生か!」
呆れ返る美園の視線の先には、両手にいっぱい紙袋をぶら下げている友人の姿が。確かにあちこちサービスエリアには寄ったし、面白そうなショップも見たのは確かである。久しぶりに来てみれば、寂れていていた笹賀SAがものすごく華やかになっていて、ついついはしゃいで見て回ってしまったというのも美園自身否定はできない。できないけども。
「普通……行きにそんな大荷物買ったりする?帰りに買えばいいじゃん、上り方面にも同じお店あるんだからさぁ。うちのおばあちゃん達へのお土産にっていうならわかるけど、それ殆ど自分用でしょ?どうすんの、そんなに大量のお菓子。トランクに入る?ていうかこの炎天下に置いていって大丈夫なわけ?」
美園が正論ツッコミをすると、知らん!と言いつつ彼女はトランクを開けてぐいぐいと荷物を詰め込み始めた。が。
「美園!この大量のビールどかして!入んない!」
「どかしても入りきらないことに最初に気付こうか!!アホ!!」
そもそも保冷バッグがなくても、自分達が乗ってきたのは軽自動車というヤツなのだ。そんなに大量のお菓子が入るスペースなど最初から用意されていないのである。
ついでに、今は夏。いくら常温保存できるクッキーの類いが大半だからといって、炎天下の車の中に何時間も置いておいて無事で済むとは思えない。そして常温保存ものだからこそ、保冷剤のようなものは貰えていないし――貰えたところで、ソッコーで使い物にならなくなるのは眼に見えた話である。
「……そのお菓子の一部をおばあちゃん達に供給するなら、涼しい部屋か冷蔵庫に置かせて貰えるよう私が交渉して差し上げますけどもー?」
「うう」
「いや、そこで迷うなし!この食いしん坊め」
「酒乱の美園サンに言われたくないですぅ……!」
コントのようなやり取りをしながら荷物を下ろし、焼けるような日差しに文句を言う琴子の尻を蹴飛ばしながら駐車場を後にした。ここから十分ばかり歩かなければいけないが、明日まで停められる駐車場を提供して貰えただけ有り難いというものである。
この時はまだ、美園達は単なるレジャー気分でしかなかった。
本当に怖いものなど、まだ何一つ知らなかったのだから。
最初のコメントを投稿しよう!