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『焼』
そう、書かれていた。
『此度の文字は……“焼”。清められた籤により決められた文字に沿って、御影様には儀式に臨んで戴くことになりました。気を高める方法は一つ……過酷な苦痛に耐える修行をこなして戴くことでございます。想像を絶する責め苦こそ、あらゆる魔をも凌駕するほどの霊力を手に入れる、唯一無二の手段なのです』
まさか、と琴子は青ざめる。あまりにもストレートな、その一文字。何をされるかなどあまりにも明白ではないか。
唖然とする琴子を無視して作業は進められることになる。磔は少し高い位置に直され、琴子の足にはぐるぐると布のようなものが巻かれ始めた。べったりと湿っており、嫌な臭いがつんと鼻につく。
油だ、とすぐにわかった。何のためかなど言うまでもない――燃えやすくするために決まっている。そう。
――嘘でしょ……!?
琴子の足を生きたまま焼こうというのだ、この連中は。
ぞっとし、暴れて逃げようとする琴子。しかし、体は小刻みに震えるばかりでまるで動いてくれる気配はない。悲鳴の代わりに発せられたのは、幼子のしっかりとした声だった。
『それは、とても苦しいことなのだな』
『左様にございます、御影様。しかしこの役目は御影様にしか果たせぬことなのでございます』
『そうか……御影にしか、出来ぬことなのか……』
少女の感情が、伝わってくる。琴子は心の中で叫んだ――何故、何故“貴女”はそのように諦めてしまうことができるのだ、と。
――駄目よ!駄目だってば!だって今から殺されるんだよ!?生きたまま、滅茶苦茶痛い思いをして殺されるの!!それなのになんで、そんな風に受け入れることができるわけ!?震えてるくせに……本当は怖いくせに!!
琴子の声は、伝わらない。誰かに届くことも、ない。
やがて琴子と一体化している少女の足先に、松明の火が近付けられた。これは夢のはずだ。しかし、熱さは夢とは思えぬほどリアルに感じる。逃げられない――逃げる手段はない。
琴子の目が目一杯開かれた、その刹那。
『ぎっ……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
突き刺すような激痛と絶叫が、全身から迸ったのだった。
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