<第十六話・叫>

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 そういうこと、だったのだ。  この土地は、呪われていた。ゆえに天災が相次いでいた――1720年までは。  その忌み地を浄化し、人が住める土地として取り戻すために、選ばれた人柱があの御影様という名の少女。彼女が苦痛を受けて死ぬことにより霊力を強化され、その状態で人柱になることによってこの土地に根ざしていた“地獄の蓋”は封じられることになった。ぱったりと天災がなくなったのはそのためなとされたのだろう。だが。  それでもこの盆地が、この村が地獄の蓋の上に存在し、その蓋を封印するための堰を担っている状況が変わったわけではない。  封印は、定期的に貼り直されなければならなかった。つまり、同じように生贄を捧げて、人柱を強化する必要があったのである。そして、その人柱が選ばれる基準はただ一つ。  この土地に来た“よそ者”で――“みかげさま”の名を口にした者。だから、琴子は選ばれてしまったのだ。 「……なんで」  定められた運命。此処に縛り付けられた自分に、逃げる手段はない。もう琴子も分かっていた。けれど。 「なんで……こんな酷いこと、するのよ……っ!」  だからといって、どうして諦めて運命を享受することなどできるだろうか。苦痛に満ちた死を歓迎しなければいけないというのか。  まだやりたいことなどたくさんある。あのムカつく部長の鼻を明かしてないのもそうだし、三年前に別れてから彼氏も作れていない。というか、合コンもあんまり参加できてない。  せっかく、美園という一緒にいて楽しい友達と出会えたのに、まだ彼女と行きたい場所だっていっぱいあるのに、行けていない。オカルトスポットだけではない、彼女も結構アニメが好きだと聴いていたから、どうせなら聖地巡礼だってやりたいと思っていたのだ。例のヒロインが告白した橋とか、主人公達が冒険した離れ島とか、ファーストキッスをしたあの映画館だとか。  死にたくない。生きていたい。それなのにどうして、こんな訳のわからないところで一人、甚振り殺されるなんて未来を受け入れなければいけないのだろう。それがいくら、この世界を救うため、なんて大義名分があったとしてもだ。 「生贄捧げて、世界を守ろうなんて……それで地獄の蓋を封印できるなんて、そんな考え方古すぎるでしょ……!そんなくだんないこと本気で信じて何人殺したの?何でそんなことが平気でできるの、ねえ……!?」  訴えたところで意味などないのかもしれない。でも、琴子は言わずにはいられなかった。  言葉にすることさえやめてしまったらもう、そこにきっともう、あるべき自分などいないのだ。 「死にたくない……こんな訳のわかんない死に方なんてしたくない……そう思うのが、間違ってっての……!?」  何かが変わると、奇跡に賭けていたわけではなかった。それでも琴子に出来ることはただ、そのただ一つだけだったのである。  生ぬるい涙と鼻水に塗れた哀れな女の姿を。神官達は果たして、どんな気持ちで見つめていたのだろうか。
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